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日曜日の駅前は、待ち合わせをする人たちで溢れていた。
改札を出てすぐのところでは僕と同い年くらいの人たちが笑い合い、少し離れた場所では小さな子どもを連れたお母さんが歩いている。
そんな賑やかな景色の中で、僕はスマホを握り締めたままそわそわと辺りを見回していた。
──織くんと初めてのデート。
一週間前に予定を立ててから、学校でもバイト中でも毎日のようにコーディネートを考えていた。
動画映えとか対決用とか気にしない、ただ純粋に“恋人に見せたい好きな服”を考えるのはそれはもう楽しかった。しかも自分のためにイチからコーデを組むなんで随分久しぶりなのだ。張り切らない方が変だろう。
──むしろ気合い入れ過ぎたかな。
──織くんはどんな感じで来るんだろう。
「──紡くん」
カップルで服にかける情熱にさがあり過ぎるのもどうなんだろう、と不安になったその時、背後から声がかかる。約束の時間よりちょっと早いけど織くんが来てくれたんだ、すぐに振り返った僕は──思わず二度見した。
「おはよ。早かったね」
「お、おはよう。えっと……かっこいいね」
「ありがとう。頑張って選んだ」
僕だけ張り切ってたらどうしよう……とは、余計な心配だったようだ。
人混みの中でもすぐ分かった。
顔とスタイルが良いから目立つ……っていうのも正直あるけど、何よりも服装だ。
シンプルなのにシルエットが綺麗で、織くんの上品な雰囲気が格上げされている。こんなかっこいい人の隣を恋人として歩けるなんて前世の僕はとてつもない善行を積んだに違いない……とよく分からないところに感謝を捧げたところで、僕の全身を何度も行き来する織くんの視線に気づいた。
「紡くんのコーデも可愛い。っていうか……」
「え?……あ」
織くんが特に注目していたのは、前に彼がコーデを教わったお礼としてくれたファッションリング──が、しれっと嵌まった僕の左手の薬指。……いつ気づくがドキドキしてたけど、まさかこんなに早く見つかるなんて。
──というか……。
「織くんも着けてきたんだね……」
「あ、気づいた?」
何気なく見遣った相手のそこにも、同じデザインで色違いのそれが嵌ってるのを見つけてしまってぼんっ、と顔が熱くなる。
ついでに言うと僕の今日のコーデはこの指輪が引き立つように決められていて……たぶん織くんもそこを基準に選んだんだと、ちらほら被っているアイテムを見て察した。
「……なんか」
僕の言いたいことに気づいたらしい織くんが口を開く。
「打ち合わせてなくてもリンクするんだね、俺たち」
「……だね」
「カップルっぽいね」
「……うん」
喜んでくれてるのはかろうじて分かるけど、相変わらずその表情からは読み取り辛い。
彼に関してはそれでも問題ない、知りたいことがあったらその身に纏う服を見れば良いだけだから。
──僕の“好き”を信じてくれて、自分の“好き”を諦めない人。
そんな人が恋人として隣にいる未来なんて、少し前まで想像も出来なかった。
「紡くん、今日はどこ行く?」
「とりあえずあそこの古着屋さん行っても良い?一億円のヴィンテージデニムが置いてあるんだって」
「やば。古着屋さんっていうより博物館みたい」
「ねっ」
テンポの良い会話に自然と頬が緩む。
無駄に緊張してたけど、意外とデートって感じがしなくて自然体でいられる……と油断した途端、フリーだった右手がぎゅっ、と握られた。
「あっ……」
「デートだから、これ」
心の中を見透かされたような織くんの言葉に緊張感が戻ってきてしまう……けど、それで良いんだろう。
雑踏の中。
たくさんの人が行き交うところで僕たちも歩き出す。
思い切って手を握り返せばこちらの指と指の間を、爪まで綺麗な織くんのそれがゆるりと絡んできた。


