◇◇
「それじゃあ早速、視聴者投票に移りたいと思います!!」
早見くんのデートコーデの評価がひっくり返ったあたりから口数が少なくなったリュウガ先輩の代わりに、花守くんが視聴者に促した。
「投票は概要欄のリンクからよろしくー!三秒以内なっ」
【いやみじかっwww】
【この人ほんと好きw】
まさかの短期決戦で視聴者も……ついでに僕も反応せずにいられない。コメントの流れが気持ち緩やかになったのは、みんな投票に行ってくれてるからかな。
実際に設けられた約三分間は異様に長く感じた。僕が乱入した意味はあっただろうか。最後まで“好き”を貫き通した早見くんは、ちゃんと報われるだろうか。
「……はいっ、結果が出たみたいです!」
張り詰めたような花守くんの声でスッ、と背筋が伸びる。
──今さらだけど、“早見くんのコーデを完成させる”っていう役割が終わった僕はここにいて良いのかな。
──視聴者の皆さまに『コイツいつまでいんの??』とか思われてたらいたたまれない……。
そんな懸念からさりげなくフェードアウトしようと文字通り引き下がる僕の背中を、早見くんの手が素早く押さえた。
「紡くん、どこ行くの?」
「僕がいたら邪魔かなって……」
「大丈夫だからここにいて。俺から離れないで」
「……うん」
形の良い唇が頭ごと僕の耳元に近づき、吐息で囁く。状況的に深い意味はないだろうにただ頷くだけで精一杯だった。
「それではスタッフさん、発表お願いします!」
「はい!」
集計結果が出てるであろうスマホを持った“ネオカ”のスタッフさんが読み上げてくれるみたいだ。
「勝者は──“NEON CHAOS”!!」
……横から覗いていた“リュウ最”側の人が顔を顰めたのでなんとなく予想は出来た。
でもいざ発表されるとぶわっ、と喜びが込み上げてきて──……背中に回る手に促されるまま、僕は早見くんと抱き合った。
「っしゃあ!」
「おめでとうございます!!」
すぐさま駆け寄ってきてくれた花守くんと豊崎くんにハイタッチを求められて、早見くんの腕の中から応える。
離れるタイミングを見失ってしまって恥ずかしさが勝ってくるけど……がっちりと回った腕は緩む気配はなかった。
【勝った二人はほんとに仲が良いんだろうな】
【お互いのこと分かってないと組めないコーデ】
【服を通して惚気けられた気分。良い勝負だった!】
ようやく確認したコメント欄も温かい声で溢れている。配信が終わったらネオカの動画見に行く、といった声も多いから“新しいファン層を獲得する”っていう目的の方も果たせそうだ。
──カメラが止まったあとのリュウガ先輩の反応だけ気になるけど……。
とうとう喋らなくなってしまった先輩の方をちら、と見ても目は合わない。
──また“地味顔のくせに”って言われるだろうか。
──でも言われたとしても、今なら軽く受け流せる気がする。
花守くんが配信のシメになったところでやっと、早見くんが僕を腕の中から解放してくれた(ちょっと名残惜しと思ってしまったのはないしょだ)。
距離を取ったことで見れた、普段の無表情から考えられない歓喜の色に……僕の心臓が余計にうるさくなった。
◇◇
「おい、地味顔」
生配信終了後。服を貸してくれたスタッフさんたちにお礼を言って回っていた僕の元にリュウガ先輩がやってくる。
──とうとう僕のこと“地味顔”って言った……。
呆れはあっても恐怖はない。僕に近づく先輩の後方で睨みを効かせている早見くんに、首を振って止める。
「お前が生配信に乱入してくるとか想定外だったわ。数字取れてたから良いけど普通にクレーム案件だぞ」
「……それはほんとにすみません……」
生配信冒頭のテンションとは違う低い声。カメラも回ってないしこのまま掴みかかってくると思いきや、一定の距離はキープされている。周りの目があるからか……対決が終わって先輩なりに思うところがあったのか。
「勝ったところでお前が地味なのは変わらねぇぞ」
「……分かってます」
首にかかったチェーンを直すフリをして、早見くんがくれた指輪に触れる。
──大丈夫。
「僕は目立ちたいからおしゃれしてるわけじゃありません。自分の“好き”をファッションに詰め込んで……誰かひとりでもそれに気づいてくれればじゅうぶんです」
「……センスの無駄遣いだよばーか」
吐き捨てるように言うと、先輩はさっさと踵を返して部屋を出て行った。
「紡くん、何もされなかった?」
「うん、大丈夫だったよ。……あのさ」
入れ違いで早見くんがこちらに駆け寄ってきた。正直リュウガ先輩と対峙した時より今の方が緊張する。僕はこのコーデに詰め込んだありったけの思いをこの人に気づいてもらうべく、なるべく大きく口を開く。
「今日はこのコーデ着たまま、一緒に帰らないっ?」


