君に思いを告げる服




◇◇

 
 ──まずい。

 “ネオカ”スタッフに漂う空気と、ちょっと視線をずらせば確認出来るコメント欄で分かる。
 ──コーデとしては間違ってない。俺の“好き”と、紡くんが教えてくれた知識を全部詰め込んだ。
 ──でも……この雰囲気のまま投票までいったら俺は負ける。
 『感情が分かりづらい』ってよく言われるけど、さすがに今は頬を伝う冷や汗が見えてるんじゃないか。
 リュウガのマシンガントークに付いていくのに精一杯で紡くんの方を見る余裕がない。
 ──がっかりしてるかな。
 俺はただ、トラウマを乗り越えて好きな服を思い切り楽しむ紡くんを見たかっただけなのに。
 余計に傷つける可能性が見えてきて泣きたくなる。
「──って、ちょっと待てい!リュウガさんも視聴者のみんなもこれで終わり感出してるけどさぁ……“俺たち”のターンはこれからなんだよなぁ!!」
 ……と、これまで相槌や話題提供で裏回しをしていた花守がアドリブを入れてくる。
 リュウガの喋りを止めてもらってありがたいけど何のことを言ってるんだろう。さっきから謎の位置調整をしてる豊崎が一発ギャグをかましてくれるとか?
 何にしても時間を稼いでもらってるうちに巻き返す方法を考えようとした、その時。


「──(しき)くんっ!」
 
 
 俺のコーデと似たような配色の人影が視界に飛び込んでくる。
 顔を隠すためかキャップを目深に被ってることと、シンプルな服装しか見たことがなかったからか、“彼”が紡くんだと気づくのに何秒かかかった。
 カットソーとシャツはうちのスタッフが着ていた記憶があるからその辺り(あた)から借りてきたんだろう。だけどボタンの開け方や袖の捲りかたなどの細かいこだわりが、それらのアイテムを完全に自分のモノにしていた。
 
 ──完成した。

 ぱちっと、パズルのピースがはまるような音が脳内に響く。
 俺のコーディネートは紡くんが来てくれたことで完成した。うん、今はそっちの方を喜ぶべきなんだけど。

 ──紡くん、今俺のこと下の名前で呼んだ。
 ──俺は動画内で名字を公表してないから、スタッフの誰かがそれを教えた?

 好きな子に下の名前を呼んでもらうってこんなに幸せなのか。
 教えたスタッフにはお礼として俺が魂を込めてコーディネートを組んであげようかな。……菓子折りとかの方が良いか。
 

◇◇

 
 早見くんの左隣、豊崎くんが空けてくれた立ち位置に慎重に立つ。
 もはや密着している。そんな場合じゃないのに心臓がうるさい。
 見えやすいところに三脚で固定してある画面には次々とコメントが流れていて、今は突然乱入してきた奇妙な奴──つまり僕のことでもちきりなんだろうなと思う。
 
「どうだっ、デート相手が来ることで初めて出来上がるリンクコーデだ!ちなみに古着屋巡りを想定してるそうです!!」
 
 さも打ち合わせ通りです、という風に花守くんが繋げてくれるけどこの展開もコーデもついさっき決めた。スタッフさんたちに頭を下げながら服を借りて回る僕を見ただけでここまで機転を効かせてくれた花守くんと豊崎くんには頭が上がらない。
 ──トラウマが消えたわけじゃない。
 生配信乱入を受けて「やられたー!」とその場でのけ()るリュウガ先輩の目がちっとも笑ってないことも、近くのスタッフさんが『コーデ“は”おしゃれ!』と小声で言うのも……気を抜くと卒倒しそうなくらい怖い。
 
 ──でも早見くんが……君が僕の“好き”を信じてくれてるなら。
 ──僕はトラウマだって着こなしてみせる。

 僕の袖を軽く引っ張った早見くんが「コメント見てみて」と囁く。素顔を晒さないようにキャップの隙間からそっと覗いた。
【えっ、相手の子のコーデ可愛い!】
【骨格的に男の子かな】
【この二人で古着屋巡りは解釈一致すぎる】
【二人でひとつってこと?こっちの方が普通に好きだわ】

「……!」

 好意的な反応がほとんどだ。
 瞬きすらもったいないと、すぐに流れていってしまうコメントたちを目に焼き付ける。
 
 “二人でひとつ”。

 たった一文に気恥ずかしくなってはにかむくらいには、今の僕には余裕があった。