君に思いを告げる服





◇◇


 
「ごきげんよう、てめぇら!“リュウガの最弱伝説”、久しぶりの生配信の始まりだ!!今回のスペシャルゲストは──」
「どうもっ、“NEON(ネオン) CHAOS(カオス)”でーす!」


 本番開始直後の静まり返ったスタジオに、リュウガ先輩と花守くんのハイテンションな声が響く。今回のメイン企画のコーディネートをまだ視聴者に見せないためか、先輩の首から下は黒いケープで覆われていた。
 
 ──ついに生配信が始まった。
 
 壁際で待機するスタッフさんたちに混ざり、スマホを両手に見守る僕。
【今日のリュウガの髪型好きなんだけど!】
【ゲストはネオカかー】
【花守くん元気いっぱいでかわいい】
【リュウ最とネオカってジャンル違過ぎじゃね?】
 この生配信を映している画面上には、始まったばかりにも関わらず視聴者たちのコメントが絶え間なく流れている。
 ──“ネオカ”のファンもたくさん見てるみたいだけど……やっぱりちょっとアウェイな感じがする。
「今日の企画は──みんなの予想通り、俺VS“ネオカ”のビジュアル担当・織のコーディネート対決!“晴れた日の初デート”をテーマに、予算二万円でコーデを組んできたぜー!!」
 軽快な声、よく通るトーン。ルールを説明しながらもコメントを拾っていくリュウガ先輩。
 ──……すごい。
 対戦相手である早見くんは未だ到着してないけど、それすらも演出だと思わせる流れ。花守くんと豊崎くんは、たくさん喋ってるわけじゃないのに相槌や表情で場の空気を盛り上げていく。
 ──これが大人気動画投稿者……。
 みんなの実力が分かる一方で、自分の無力さを思い知る。
 何も出来ないのにこの場にいることが申し訳なくなってきた。
「ごめん(つむぎ)くん、今どんな状況?」
「えっと、配信が始まったばかりでコーデ対決のルール説明を──……早見くん……!?」
 横からの問いかけに何気なく返事をしようとしたところで、 相手がリサイクルショップから戻ったらしい早見くんだと気づく。敢えて気配を消して入って来たのか、周りはまだ誰も気づいていない。
「良かった、無事にコーデ組めたんだね……!」
「うん。ただ車にスマホ忘れてきゃって、スタッフさんが取りに戻ってくれてる」
 罰が悪そうに頭を搔く早見くんだけど、対決用と思われるコーデを既に身に付けていて準備万端だ。
「そのコーディネートすっごく良い!この短時間で組んだとは思えないよっ」
「ありがとう。人生で一番頭使って選んだから」
「ふふ」
「まだコーデは隠してる感じか。紡くん、俺の分のケープ持ってきてくれる?」
「あっ、うん!」
 ちらりとリュウガ先輩の格好を確認した早見くんは言う。僕にもやれることがあった……!と嬉々として駆け出そうとすれば、「あーっ!」というリュウガ先輩の大声が耳を(つんざ)いた。
「織くんおるやんっ。早くこっち来いよぉ!」
 周りはもちろんカメラの向こうの視聴者たちにも分かるように声を張り上げた先輩は、一度こちらにやって来て──まだコーディネートを隠せていない早見くんの手首を掴んでフレームインさせていく。今のは明らかに悪意があった。
【いやリュウガは画面から出んなしwww】
【相手来たーーー!!】
【コーデ隠れてなくて草】
 慌ててスマホを見るとものすごい速さでコメントが動いていた。
「織おまっ……えっ、すげぇ!」
「成長速度エグ過ぎません……!?」
【シキって人センス良いねー】
【どこにでも行けそうなコーデ!】
 ──……花守くんたちとコメントの温度差がすごい……。
 まともなおしゃれが出来る早見くんなんて僕らにとっては前代未聞でしかないから(失礼なことを言ってる自覚はある)、知らない人たちの反応が新鮮だ。
「織くんが待ちきれないみたいだし、早速勝負を始めるか!いい感じのコーデだけどこだわりは?」
「“晴れた日”ってテーマだったので、外でのデートを楽しめるように──」
「そういえば最近、古着集めにハマってるらしいな!それも古着だろ?」
「……はい」
 色々と物申したいことがあるだろうに、進行を優先してリュウガ先輩に合わせる早見くん。
【それ古着なの?】
【デートで古着を着て来る人はちょっと……】
【実物は金がない学生感すごそう】
「まぁまぁ!織くんは顔が良いからなんでも許せるっしょ」
 コメントを拾うリュウガ先輩はフォローしてるように見えて、早見くんの地雷を的確に踏み抜いていく。
「んじゃあそろそろ俺のコーデもみんなに見ておらおっかな。……おらっ!」
 ばさっ、と脱ぎ捨てられたケープが画面外に消えていった。
 満を持して、と言わんばかりにあらわになった先輩の全体像にコメント欄が湧き上がる。
【リュウガくんのコーデめっちゃ良い!】
【リュウガってそういうのも着るんだ!】
【待って、メロい。むり】
【すきすきすきすき。優勝に決まってる】
 ──この展開はまずいのでは……!?
 コーディネート対決をフェアにするために、作成者をぼかしておくのは大事なことだったのだと知る。
 今回はリュウガ先輩のアカウントでの配信で、視聴者のほとんどは当然ながら先輩のファンだ。この流れのまま投票に入ったら早見くんは間違いなく負ける。
 ──古着のイメージが偏ってるのも、個人的に納得いかない。
 ──ヴィンテージで個性を出せるとか、こなれた雰囲気が手軽に作れるとか……良いことがいっぱいあるのに!
 ……だけど。
 早見くんのコーディネートと、リュウガ先輩のそれを見比べて分かった。
 
 ──早見くんのデートコーデには足りないものがある。

 今回の場合は古着が悪いわけじゃない。それは僕が保証する。
 ただ完成されたリュウガ先輩のコーディネートに早見くんが勝つためには、何かを足す必要がある。でもその“何か”ってなんだ。苦し紛れに辺りを見渡した時──壁に飾ってあるフォトフレームに映る自分と目が合った。
 ──え。
 ──そんな、まさか。
 早見くんのコーデに何が足りないのか分かった。
 でも“それ”は……駄目に決まってる。
 カメラの前ではいかに力をいれて服を選んだかを語るリュウガ先輩に、早見くんがおしゃれすること自体が(色々な意味で)特別なのだと花守くんと豊崎くんが力説している。

『紡くんのコーディネートは人を前向きにさせてくれる』
『その力を自分に使えば、中学時代のトラウマだってどうにかなるはず』

 早見くんが僕の代わりにリュウガ先輩と向き合うと決めてくれた日に言ってくれたことが、しばらく経った今になってじわじわ胸に染みていく。
 ──……よし。
「……あのっ」
 大きく息を吸い込んで、すぐ隣にいるスタッフさんの方へなるべく小声で呼びかける。


「ちょっと相談があるんですけどっ」