「ねぇこれ、どれが俺に似合うと思う?」
「え?」
金曜日の朝。席に着き、挨拶もそこそこにそう聞かれて首を傾げる僕。
後ろの席の早見くん。ちょっと動くだけで周りの女子が色めき立つような彼に『これ』と見せられたのはスマホの動画で、今目の前にいるのと同じ人……つまり早見くんが映っている。
──確か三人組で動画投稿してるんだよな……って、再生回数すごっ!
──学校の外でも人気なんだ。
「ど、どれというのは……?」
「この動画に出てる服」
動画の中の早見くんは他のメンバーと一緒に様々なテイストの服を着て感想を言い合っている。右上のテロップによると、“バズってるプチプラファッション全部着る。”という企画らしい。
「そんなの全部に決まってんじゃん!」
僕が答える前に、近くで聞いていた女子たちが声を上げた。
「早見は顔が良いんだから何着ても似合うよっ」
「究極、上下ジャージでも余裕でパーティー行ける」
「スタイルも良いし!」
興奮気味に次々と出される感想を早見くんは静かに聞いている。こういうクールで落ち着いた印象は動画の中と変わらないけど、その横顔は少し寂しそうだ。
──確かに動画で着てる服はどれも似合ってるけど……。
──たぶん、早見くんが聞きたいのはそういうことじゃない。
「あっ、あの!」
席が近いだけでこれといった交流のない僕にどうして振ってきたのかは分からないけど……聞かれたんだから答えても良いよね?と意を決して口を開けば、早見くんがこちらに視線を戻した。
「早見くんのウエスト的に、このパンツが一番似合うんじゃないかな」
いきなりウエストに注目しだして不審に思われるだろうかと心配しつつ、掲げられたスマホの画面を指さして続ける。
「トップスはこれより大きいのにして、ゆるっと着た方が骨格に合いそうだし……あとアクセサリー付けるなら華奢なやつがバランス良い、かも」
言い終わってからハッと我に返った。つい喋り過ぎてしまった、早見くんが引いていたらどうしよう。
「へぇー」
「オリヤマくん詳しいね。で、私のおすすめは早見が料理に挑戦するやつで……」
先に近くにいた女子たちが反応してくれたけど興味はなかったらしく動画の話に夢中だ。後から早見くんが、僅かに瞼を緩めて「そっか」と頷いた。
「な、なんか偉そうにごめん!」
「なんで?参考になったけど」
慌てて謝る僕を彼はきょとん、と眺めている。
「すごいね。なんでそんなにすらすら思いつくの?」
「お父さんが古着屋さんで、色々教えてもらってて」
「へぇ」
何気ない相槌はさっきの女子とほぼ同じものなのに、こっちの方が実感がこもっていてなんだかソワソワする。
「やっぱり折笠くんに聞いて正解だった」
「え……?」
「ありがとう。今度その古着屋に遊びに行くね」
ここで今日初めて早見くんが口角を上げた。動画では滅多に見れないと聞く、穏やかで思いの外(なんて言ったら失礼だろうけど……)親しみやすい笑みだ。“やっぱり”っていうのも気になるけど、それよりも。
──名前、間違えられなかった……。
高校二年生。今のクラスに進級してから約一か月。
影が薄すぎてさっきの女子を始め、担任の先生すら正しく呼べるかどうか怪しい僕の名字を覚えていてくれた。
彼が学校イチの人気者なのは見た目だけが理由じゃないんだなぁ、なんて。この時の僕はぼんやりそう思っただけだった。


