「あの女が、心結だと?」
義正の眉が、不機嫌そうに動く。
自分が知る限り、心結はいつ見ても貧相だった。良いのは顔だけで、後はみすぼらしく、冴のように華やかではなかった。といっても、久我家としては顔さえ利用できればそれで良かったから、心結の存在が薄いとて気にはならなかったが。
しかし目の前の心結の、なんという変わりよう。ドレスを着て、化粧を施し、髪には宝石をつけて輝いている。まるで別人だ。
しかも久我家では見せたことのない笑みを浮かべており、それが義正の神経を逆なでする。不機嫌を隠すこともなく、眉毛と目をつり上げた。
「勝吾から〝冴の方が顔がいい〟と言われたから二人の再婚を許したわけだが……」
冴よりも、心結の方が圧倒的にキレイではないか。これでは話が違う。
まだ会場に姿を現していない冴だが、既に義正は彼女のドレス姿を見ている。先ほど控室でちょっとした挨拶を交わしたからだ。確かにその辺の女性よりはキレイだったが、しかし心結ほどではない。
この会場で一番キレイなのは、間違いなく、心結だ。
それが分かった瞬間。ワインを嗜んでいた義正は、まだ残っているにも関わらずグラスをひっくり返す。見かねた使用人が、慌てて床を拭き始めた。
「気に食わん……」
心結が気に入らないのは大前提として。その他にも皇家に媚びを売る、他の名家も目に余るものがあった。
美男美女の皇夫婦に笑いかけ、和気あいあいとしている。楽しそうに談笑しているのだ。明らかに、自分を見る時の眼差しと違う。そもそも、自分と話す時、他の名家は目を合わそうとしない。怯えたように下を向き、あべこべのように首を振るだけなのだ。
今までは、名家のそんなの姿を見て満足していた。優越感に浸っていたのだ。いかに久我家が恐れられているのかが分かって、支配しやすかった。
しかし目の前の光景を見ると、はらわたが煮えくりかえる。名家は従順だったわけじゃない、とやっと気が付いた。久我家にいやいや従っていただけだと。
反対に、どうやら皇家は慕われているようだ。久我家から皇家へ鞍替えしようとする名家たちの考えが、手に取るように分かる。
義正は、手が白くなるほどこぶしに力を入れた。
「このままでは名家の頂点が皇家になってしまう。それをみすみす許すほど、久我家は甘くないぞ」
すると司会者の声が、大きく会場へ響く。
「大変お待たせいたしました! 本日の主役である久我勝吾様、並びに冴様のご入場です!」
各名家の心が皇家へ傾いている――そんな会場の雰囲気も知らない二人が、腕を組んでにこやかに入場して来た。
力の入っていない拍手を送る名家たち。しかし冴の姿を見た瞬間、叩く手を止めた。
本来なら、純白のドレスを着ているはずの新婦。しかし大きな扉から入って来たのは、黒色のタキシードを着た勝吾と、虹色のドレスを着た冴。
七色の色が交互に並んでいる。はっきりした蛍光色が、名家たちの目を刺激した。見ていると視覚が揺らいで気持ち悪くなる。名家たちは、揃って目を逸らした。
はっきり言って、冴は綺麗でも何でもなく悪目立ちしている。どうしてこんなドレスを選んだ?――そんな疑問が会場から聞こえ始めた。
この言葉は偶然にも勝吾の耳へ入ったが、言い返せない。全くもって同感だからだ。
冴が一人で勝手に、ドレスを決めてしまった。
自分の許可もとらずに。
ドレスを決めた暁には一応確認させてほしい、と言っていたにも関わらずだ。
(まさか、こんな色を選ぶなんて……)
勝吾が、このドレスを知ったのは、つい今朝のこと。それまで冴が「当日までのお楽しみよ」と言ったものだから、見ることが叶わなかった。
しかし勝吾は冴を信用していた。結婚式と言ったら白を選ぶだろうと思っていたのだ。しかし予想は大ハズレ。まさかこんな派手なドレスを選ぶなんて思いもしなかった。赤っ恥をかかされ、作り笑いが引きつる。
だけど不思議だったのは、当主である義正が、冴の虹色ドレスを見ても、何の文句も言わなかったことだ。ただ一言「派手でいいな」と、そう述べた。
は? 派手でいい?
どこがだよ!!
そんなことを思った勝吾だが、やや強引に再婚へこぎつけた過去があるため、義正に強く言えない。
負の連鎖が続いた挙句、結婚式は決行された。時間の経過と共に久我の名へ傷がついているようで、勝吾は気が気じゃない。
(招待客の顔を見ろ。引きつっているじゃないか……!)
恥の象徴ともいえる冴を隣に置き、心ここに在らずの勝吾。日ごろ邪険に扱っている名家たちの顔など、見れたものではない。あんな非常識な嫁をもらって――と冷ややかな視線を送られるに決まっている。
(父様さえ止めてくれれば、こんな結婚式は中止にできたのに! ……ん?)
ある一点を見て、勝吾の足が止まる。
この会場で一際光る男女。一人は見たことのない美男子。その隣に並ぶのが、元妻の心結。
「み、心結……?」
見たことのない心結の朗らかな顔を見て、勝吾の胸が締め付けられる。
果たして心結は、あれほど美しかっただろうか。どうして結婚している間に手を出さなかったのか、悔やまれるほどだ。
「心結……」
勝吾は、隣にいる冴へ目もくれない。ふらりと歩き、心結へ手を伸ばした。
義正の眉が、不機嫌そうに動く。
自分が知る限り、心結はいつ見ても貧相だった。良いのは顔だけで、後はみすぼらしく、冴のように華やかではなかった。といっても、久我家としては顔さえ利用できればそれで良かったから、心結の存在が薄いとて気にはならなかったが。
しかし目の前の心結の、なんという変わりよう。ドレスを着て、化粧を施し、髪には宝石をつけて輝いている。まるで別人だ。
しかも久我家では見せたことのない笑みを浮かべており、それが義正の神経を逆なでする。不機嫌を隠すこともなく、眉毛と目をつり上げた。
「勝吾から〝冴の方が顔がいい〟と言われたから二人の再婚を許したわけだが……」
冴よりも、心結の方が圧倒的にキレイではないか。これでは話が違う。
まだ会場に姿を現していない冴だが、既に義正は彼女のドレス姿を見ている。先ほど控室でちょっとした挨拶を交わしたからだ。確かにその辺の女性よりはキレイだったが、しかし心結ほどではない。
この会場で一番キレイなのは、間違いなく、心結だ。
それが分かった瞬間。ワインを嗜んでいた義正は、まだ残っているにも関わらずグラスをひっくり返す。見かねた使用人が、慌てて床を拭き始めた。
「気に食わん……」
心結が気に入らないのは大前提として。その他にも皇家に媚びを売る、他の名家も目に余るものがあった。
美男美女の皇夫婦に笑いかけ、和気あいあいとしている。楽しそうに談笑しているのだ。明らかに、自分を見る時の眼差しと違う。そもそも、自分と話す時、他の名家は目を合わそうとしない。怯えたように下を向き、あべこべのように首を振るだけなのだ。
今までは、名家のそんなの姿を見て満足していた。優越感に浸っていたのだ。いかに久我家が恐れられているのかが分かって、支配しやすかった。
しかし目の前の光景を見ると、はらわたが煮えくりかえる。名家は従順だったわけじゃない、とやっと気が付いた。久我家にいやいや従っていただけだと。
反対に、どうやら皇家は慕われているようだ。久我家から皇家へ鞍替えしようとする名家たちの考えが、手に取るように分かる。
義正は、手が白くなるほどこぶしに力を入れた。
「このままでは名家の頂点が皇家になってしまう。それをみすみす許すほど、久我家は甘くないぞ」
すると司会者の声が、大きく会場へ響く。
「大変お待たせいたしました! 本日の主役である久我勝吾様、並びに冴様のご入場です!」
各名家の心が皇家へ傾いている――そんな会場の雰囲気も知らない二人が、腕を組んでにこやかに入場して来た。
力の入っていない拍手を送る名家たち。しかし冴の姿を見た瞬間、叩く手を止めた。
本来なら、純白のドレスを着ているはずの新婦。しかし大きな扉から入って来たのは、黒色のタキシードを着た勝吾と、虹色のドレスを着た冴。
七色の色が交互に並んでいる。はっきりした蛍光色が、名家たちの目を刺激した。見ていると視覚が揺らいで気持ち悪くなる。名家たちは、揃って目を逸らした。
はっきり言って、冴は綺麗でも何でもなく悪目立ちしている。どうしてこんなドレスを選んだ?――そんな疑問が会場から聞こえ始めた。
この言葉は偶然にも勝吾の耳へ入ったが、言い返せない。全くもって同感だからだ。
冴が一人で勝手に、ドレスを決めてしまった。
自分の許可もとらずに。
ドレスを決めた暁には一応確認させてほしい、と言っていたにも関わらずだ。
(まさか、こんな色を選ぶなんて……)
勝吾が、このドレスを知ったのは、つい今朝のこと。それまで冴が「当日までのお楽しみよ」と言ったものだから、見ることが叶わなかった。
しかし勝吾は冴を信用していた。結婚式と言ったら白を選ぶだろうと思っていたのだ。しかし予想は大ハズレ。まさかこんな派手なドレスを選ぶなんて思いもしなかった。赤っ恥をかかされ、作り笑いが引きつる。
だけど不思議だったのは、当主である義正が、冴の虹色ドレスを見ても、何の文句も言わなかったことだ。ただ一言「派手でいいな」と、そう述べた。
は? 派手でいい?
どこがだよ!!
そんなことを思った勝吾だが、やや強引に再婚へこぎつけた過去があるため、義正に強く言えない。
負の連鎖が続いた挙句、結婚式は決行された。時間の経過と共に久我の名へ傷がついているようで、勝吾は気が気じゃない。
(招待客の顔を見ろ。引きつっているじゃないか……!)
恥の象徴ともいえる冴を隣に置き、心ここに在らずの勝吾。日ごろ邪険に扱っている名家たちの顔など、見れたものではない。あんな非常識な嫁をもらって――と冷ややかな視線を送られるに決まっている。
(父様さえ止めてくれれば、こんな結婚式は中止にできたのに! ……ん?)
ある一点を見て、勝吾の足が止まる。
この会場で一際光る男女。一人は見たことのない美男子。その隣に並ぶのが、元妻の心結。
「み、心結……?」
見たことのない心結の朗らかな顔を見て、勝吾の胸が締め付けられる。
果たして心結は、あれほど美しかっただろうか。どうして結婚している間に手を出さなかったのか、悔やまれるほどだ。
「心結……」
勝吾は、隣にいる冴へ目もくれない。ふらりと歩き、心結へ手を伸ばした。



