寝ても冷めても彼ばかり



高雅が傍にいるから、そんな心配……というか、発想すらなかった。
とは言え、やっぱりまずい。この平和思考は、高雅に全力で寄りかかってるから生まれたものだ。反省しなきゃ。
慌てて首を横に振り、彼に向き直る。
「……ごめん。俺、お前に甘え過ぎだよな」
「…………」
最大限誠意を込めたんだけど、高雅は無反応だった。人形のように整った顔で俺を見つめている。
美人の真顔って怖い。半泣きになってると、彼は急に俯き、咳払いした。

「いいよ」
「え?」
「甘えていい。警戒はしなきゃ駄目だけど、甘えること自体は問題なし」

念押しして、高雅は顔を背けた。その頬はわずかに紅潮していて、言い難い違和感を覚えた。
「素直過ぎるから注意したけど、大前提として俺が守るから大丈夫。……絶対に」
「うん……。ごめん」
「俺の方こそ、いつもごめんな」
高雅はふぅと息をつくと、隣の椅子の背に腕をかけた。
「お前をこき使ってる、って間戸に言われたときに思ったんだ。やっぱそう見えるよな、って」
「何言ってんだよ。お前が俺に求めんのは女子との同伴だけだろ」
「でも、無理やり連れ回したことに変わりない。もうしないけど、愛想つかされても仕方ないことだ」
「あ、愛想つかすわけないだろっ!」
逆ならともかく、自分が高雅を見限るなんて。そんなことは絶対起きない。
前のめりになり、自分でもおかしいぐらい必死に否定した。
声も大きくなって、下手したら隣のテーブルのひとに聞こえてしまう。なのに全然止まらない。むしろヒートアップしていく。
「本当に嫌だったら、同じクラスでも関わらないようにしてるよ。でも俺は、お前といるのが一番落ち着くんだ。今日だって、一緒に来てくれてすごくホッとした」
心の底から不安なとき、いつも手を差し伸べてくれるのが高雅だ。
確かに根っからのお坊ちゃんだし、自信家だからゲンナリすることはあるけど。そんなの、彼のほんの一部に過ぎない。
俺は誰よりも彼の優しさを知っている。
「だから、その……ありがとう。ついてきてくれて嬉しかったよ」
「……っ」
お礼も、改まって言うとめちゃくちゃ恥ずかしい。
いつも一緒だからこそ、わざわざ言わなくなる。でもやっぱ言った方が良いんだな、としみじみ思った。
「タイプ違うとか、こき使われてるとか思われたとしても。俺はお前と一緒にいたい」
ちゃんと言葉にしないと伝わらない想いがある。“わざわざ”しなくても、なんて。それこそ酷い過信だ。
幼馴染だからこそ、どんな小さな気持ちも共有しなきゃ。
高雅は頭が痛そうに瞼を伏せていたが、やがて静かに呟いた。

「……さっきから俺の理性破壊しにかかるのやめてくれないか?」
「はい? 何の話?」

本気でわからなくて聞き返すと、楽しそうな笑い声が聞こえた。
高雅は子どもみたいに無邪気に笑い、俺の額を指でつつく。
「は〜あ。間戸に限らず、男がお前に距離詰めてるとすごく焦るんだよ」
「そう? でも俺も男だし」
「うん。でも、お前は特別」
彼は手を伸ばし、俺の左手をぎゅっと握った。
「ちっちゃい手」
「何だよ……女子よりは大きいだろ」
「はは、そうだな」
高雅は可笑しそうに、でも何故か愛おしそうに目を細めた。
「変な奴に狙われるぐらいなら、俺のもんだってわかるようにしないとかな」
「はぁっ?」
なんてことを言うんだ。怒りと羞恥心で顔が熱くなり、慌てて彼の手を払った。
「馬鹿言うなよ。俺にも人権あるからな?」
「わかってるって。強いて言うなら恋愛権だ」
彼は見惚れる笑顔のまま、俺の頬を優しくつまんだ。
「女の子と自由に恋愛する権利を奪った。義務と責任が、俺にはある」
「……あほ」
何かもう、彼の言うこと全部恥ずかしい。
でも、本気で怒れない俺もどうかしてる。ストローをくわえると、彼は嬉しそうに頬杖をついた。
「そうは言っても、昔に比べて成長したなぁ。昔はあんなピーピー泣いてたのに、感慨深いよ」
「何なんだよ、さっきから!」
落ち着いてコーヒーも飲めない。
天然のタラシに一喝し、同じスマホを並べて置く。
もう疲れたから、さっさと帰って寝よう!

どうせ寝る前と目覚めた時には、彼の優しい声を聴くのだから。