優しい嘘

その後色々と手続きがあり、いつもの病室でため息を漏らした頃には日が沈みかけていた。

部屋に着いてすぐスマホを手に取った。

一刻も早く兄に伝えたかった。

その時、見慣れた番号から電話がかかってきた。

「一ノ瀬さん先ほどは手術お疲れ様です。終わって1番の連絡がこのような内容になってしまいこちらも心苦しいのですがよく聞いてください。あなたのお兄さん一ノ瀬旭さんが先ほど職場から意識不明の状態でこちらの病院に運ばれました。命に別状はありません。今どちらにおられますか?至急302号室にきてください。」

一瞬何を言われたのか分からなかった。

お兄ちゃんが意識不明?

職場?

今日は学校に行っていたはずだ。

情報が少な過ぎて頭が追いつかない。

とりあえず私は無我夢中で言われた部屋へと向かった。

部屋に入るといつもの元気な兄とは似ても似つかないほど弱々しい姿が見えた。

何があったの。

ねえどうしたの。

聞きたいことは山程あった。

なのに声が出なかった。

頭が真っ白になった。

そこで初めて兄が私にとってどれだけ大切な存在だったのか、失うことへの恐怖を悟った。

私が動けず立ちすくんでいると、

「光きてくれてありがとう。いっぱい迷惑かけちゃってごめんね…そうだ。手術成功したって聞いたよ。本当に良かった…おめでとう…」

なんで。

なんでなの。

今私よりもずっとしんどいのはお兄ちゃんでしょ。

なのになんでおめでとうなんて言葉を人にかけることができるの。

「それとねもう分かっているかもしれないけど、光に言わなければならないことがあるんだ。言ってもいいかな。」

そう言われたとき、聞きたいという本能とこれを聞くことによって今の幸せな生活が壊れてしまうのではないかという不安が頭をよぎった。

だけどきっとこの話を聞かないと、私は前に進めない。

ずっと支えられてばかりの弱虫のままだ。

怖くてもどんな内容でも前を向いて、知って、受け止めて、そして動かないと何も変わらない。

「うん。お兄ちゃんの思い全部聞かせて。」