優しい嘘

「今日はねとってもいい天気だよ。青空が僕たちを包んでいてお日様もご機嫌のようだ。何かいいことがあったのかな。」

「いいなぁ。私もいつかお兄ちゃんと同じ景色見てみたい。」

「きっと見れるさ。この世界がどれだけ美しいのか自分の目で確かめられる日がきっとくる。」


私は生まれつき足が上手く機能せず、目が全く見えない病気を患っている。

だから生まれてから今日まで十五年間ずっと病院で生活している。

そんな私の代わりにお兄ちゃんはいつも素敵な世界のことを教えてくれる。

青く輝く空、暖かく微笑んでいるお日様、毎日を精一杯生きている動物たち、そして愛と思いやりに溢れた人々。

そんな幸せに溢れた世界をこの目で見ることが私の夢だ。

「じゃあ僕はそろそろ学校に行くよ。また後でね。」

「うん!いってらっしゃい。」

いいなぁ私も学校という場所に行ってみたい、そう思ったこともあったがただでさえ毎日病院に通ってくれている兄にこれ以上わがままを言って困らせたくはなかった。

母と父は仕事の関係で5年前から海外に行っている。

今どこで何をしているのか、正直よく分かってはいないが、心配する私を気遣ってたまに兄が

「お母さんたち元気にしてるって。写真送られてきたよ。」

と報告してくれるのでそれ以上は聞かないようにしている。

お兄ちゃんが出ていったあと、部屋はしんと静まり返った。
遠くで看護師さんの足音が規則正しく近づいては遠ざかり、時計の針が刻む音だけがやけに大きく耳に残る。
しばらくすると食事の匂いがふわりと漂い、窓から入る風も少しだけぬるくなった気がした。
時間がゆっくり流れていく中で、私は何度も耳を澄まし、そのたびに違う足音に小さく息を落とした。
すると
「ただいま。」

ずっと待ちわびていた優しい声が耳に流れ込んできた。

「おかえり!今日の学校はどうだった!?」

「いつも通り楽しかったよ。今日は体育の授業があってドッジボールをしたんだ。そしたら僕が最後の一人に残っちゃってね笑」

「それでそれで!結果はどうだったの!?」

お兄ちゃんが学校から帰ってきたらその日の出来事を話してもらうというのが毎日のお決まりで私の最大の楽しみでもあった。

今日は席替えをしてね‥

今日は怖い先生の授業中に寝ちゃって‥

お兄ちゃんの話は毎回面白く飽きることがなかった。

そしてそんなたわいもない日々が、当たり前のように続いていくと思っていた。

変わらない毎日。

けれどその中で、私は少しずつ「いつか」を信じるようになっていた。