「総司、部屋まで歩けるか?」
「はい」
聞き慣れているはずの声は驚くほど弱々しく、けれど、声が聞けたことに心の底から安堵した。
フラつきながら歩こうとする沖田さんの元へ走り、今度は背中からではなく正面から抱きついた。
疲れているのに、見るからに体調が優れないのに、抱きしめずにはいられなかった。
気をつかってくれた斎藤さんが「永倉達を見てくる」と言って、歩いていった。
他の隊士達も静かに引いていくのが、足音で分かる。
「……部屋に行きましょうか」
頭の上から優しい声が降ってきて、顔をあげると青白い顔で困ったように笑っていた。
恥ずかしくなり、心の中で謝る。
本来なら沖田さんの体を一番に気遣わないといけないのに、沖田さんは私の肩に優しく手を置いた。
少し歩いて部屋に入り、沖田さんを壁に凭れるように座らせる。
支えながらだと布団を敷けないし、かといって体調が優れない人を畳の上で寝かせるわけにもいかない。
畳でいいですよと弱く笑いながら言っていたけど、私はそれを許そうとはしなかった。
「お怪我はありませんか?沖田さん」
「ええ、ありません。ですが、情けないところを見せてしまいましたね」
情けなくなんかない。
京の治安を守るために体を張って命を賭けている人達がどんな姿であろうと、情けないとは一ミリも思いはしない。
寧ろ、すごくかっこいいとさえ思う。
私は何も言えずにただ微笑んで、お湯と手拭い、それから白湯を取りに行った。
文久四年──元治元年、六月五日。
長州藩御用達の宿である池田屋で、新撰組が尊皇攘夷派七名を討ち取り、四名に手傷を負わせ、二十三名を捕縛したと聞いた。
けれどその代償は重く、その場で一名の隊士が命を落とし、さらにその後に二名が命を落とした。
それが、後に池田屋事件として歴史に残り、新撰組の名が日本中に広まるきっかけとなった。
そして、元治二年二月二十三日。
大きくなり、変わりゆく新撰組についていけず逃亡した山南敬助が捕縛され、隊に背いた責を負い切腹し、新撰組からまたひとりの命が消えた。
