「澪ちゃん、澪ちゃん」
体を揺らされながら遠くから聞こえる声に、目を開ける。
どうやら、柱に凭れかかったまま寝ていたらしい。
空を見上げると薄く白んでいて、長いと感じた夜が終わったのだと知る。
視界に入ったお雅さんが、安心したように微笑んだ。
「皆さん、帰ってきはったよ」
「えっ」
帰ってきたという言葉に、ぼんやりとしていた意識が一気に覚める。
沖田さんはと聞こうとしたけれど、お雅さんが急がないとと漏らしながら立ったため、静かにのみ込んだ。
「怪我した人もいてはるみたいやから、お湯と手拭いの準備手伝ってくれるかい?」
「………はい」
先に着替えようとお雅さんが言ってくれたため、走って部屋まで戻り着物に着替える。
自分で着替えると時間がかかってしまうため、お雅さんが着せてくれた。
慣れた手つきの人を見ると、毎回すごいと感心してしまう。
着物で階段の昇り降りも慣れたもので、お湯の入った桶を持って屯所内を走り回る。
この短時間で何往復したか分からない。
ただ分かっているのは、慌ただしい声が屯所内に響いていて、皆が帰ってきたということ。
そして、私がいちばん会いたい人の姿は、まだ見当たらないということだ。
胸の奥に広がる不安を押し殺しながらお雅さんの所へ行こうとすると、玄関口がざわついていた。
次は誰が帰ってきたのだろうと顔を覗かせると、斎藤さんの肩を借りて歩いてくる沖田さんの姿があった。
初めて見る青白い顔に、落としそうになった桶を抱え直す。
早くお湯を届けないといけないのに、目の前の光景から目を逸らすことができずに固まってしまう。
「澪ちゃん、早くお湯を!……澪ちゃん?」
「……あっ、すみません。すぐ向かいます」
我に返り慌てて向かおうとすると、桶を持ち上げられた。
「他はいいから、沖田さんについてあげて」
すみませんと頭を下げると、お雅さんは優しく笑って桶を持って踵を返した。
