聞きたかったことも聞けて、少し肩の力が抜けたのは、何もかも沖田さんのおかげだ。
もう一度こういう時間があるのなら、ちゃんとした形でお礼をしたいのだけれど、沖田さんには健康でいられる時間がもうあまりない。
最近はまた少し咳が増えたように思う。
本人がはぐらかすのでそれ以上の深追いはしないようにしているが、本当は心配で仕方がない。
路地を抜けると、先ほどまで遠く感じていた町の喧騒が一気に大きくなる。
「……総司様?」
路地を抜けて左に曲がった途端に、後ろから沖田さんを呼ぶ声が聞こえてきた。
振り向くとそこには、淡い色の着物を身に纏い、小さな木箱を持った可愛い女性が立っていた。
見た目は私と同じぐらいの年齢に見えるけど、この時代は数え年だろうから、私より一つ年上かもしれない。
「お絹さん」
出かける前に藤堂さんの口から聞いた名前だ。
沖田さんが名前を呼ぶと、お絹さんはどこか安心したように表情を緩めて近づいてくる。
邪魔をしてはいけないと少し離れようとすると、左の裾が引っ張られるような感覚がした。
見ると、沖田さんがお絹さんに視線を向けたまま、私の裾を軽く引っ張っている。
お絹さんは気づいていないらしく、一歩ずつ歩み寄ってくる。
「屯所にお伺いしたのですが、藤堂さんという方が総司様ならお出かけしていると仰っていたので」
その言葉に、沖田さんは小さく溜息をつく。
藤堂さんのことだから、何の気兼ねもなく教えてしまったのだろう。
出かける前に聞いた"総司目当て"という言葉が、何故か胸の奥で引っかかっていた。
だから、恋愛経験なくても女性の好意くらいは見抜けるようにと朱莉に鍛えられていたおかげで、お絹さんを見た瞬間、"総司目当て"というのが何となく分かった。
薬ということは医療関係の人なのだろうけど、薬売りや診察という名目で会いに行こうと思えばできてしまう。
現に、医者としてではなく会いたかった人に会えたという顔をしていた気がする。
「お身体はどうですか?最近、咳が増えてきたとお父様から聞きました。今日はもう、帰られた方が……」
第三者に言われる筋合いはないと言い返したいところだが、彼女も沖田さんの身体を気遣って言っているということはよく分かる。
それにこれは沖田さん自身が決めることであって、私がわがままでもう少し出かけていたいなど言っていいはずがない。
すると、近くで小さく笑う声が聞こえた。
「生憎ですが、今は彼女と出かけておりますので。私から誘った手前、こちらの事情で振り回すような真似はしたくありませんから」
沖田さんは相変わらず穏やかに笑っているが、お絹さんは寂しそうな顔をした。
「……そう、でしたか。お連れ様の前で無礼な発言、お許しください」
お絹さんは深々と頭を下げると、「屯所に薬を預けておきますね」と言って会釈をして去っていった。
もしも私がタイムスリップなんてしていなかったら、今頃沖田さんの隣は彼女だったのだろうかと考えると、何故か胸の奥が引き締まる感覚がした。
