結局沖田さんは、藤堂さんが触れたお絹さんのことについては何も言わず、藤堂さんたちの姿が見えなくなるまで手を引かれ、私と沖田さんは屯所を出た。
手を握られるのはこれが初めてでは無いけれど、恋愛経験がない私からすれば、何度握られてもあまり変わらない。
屯所を出てすぐに手は離してもらえたが、こうして護衛以外で男の人と出かけるのは初めてだ。
なんだか町の雰囲気も、買い出しの時とはいつもと違って見えるのは気のせいだろうか。
行き交う人々の声や店先に並ぶ色鮮やかな反物が、今日はやけに目に入る。
私の歩幅に合わせて歩いてくれている沖田さんも、いつもと恰好が違うから不思議と年相応の青年に見える。
「澪さん、今、失礼なことを考えてました?」
「……考えていません」
「少し間がありましたけど?」
悪戯な笑みを浮かべながら即座に返してきた言葉に、思わず視線を逸らす。
「沖田さんって、こうしてお仕事以外で町を歩くことってあるんですか?」
隊士の人たちのプライベートは殆ど知らず、人様のプライベートを覗こうとも思わない。
けれど、皆基本的に屯所にいるから、服装で仕事かそうでないかを見極めていた。
「んー、京に来たばかりの頃は見廻りも兼ねて歩いていましたけど、今はあまりありませんねぇ。空気も綺麗ではありませんし」
それはきっと、労咳のことを指しているのだろう。
労咳は現代言葉で言う肺結核で、この時代では不治の病として有名な病気だ。発病したら余命一年だとか。
私は医学に関して無知に等しいし、助けたくても助けられないのが現実だ。
「……お姉ちゃん?」
私はこの時代の人ではないからと無力さを感じていると、後ろから聞き覚えのある声がした。
振り返ると、浪士に絡まれていた男の子が、風車を持って立っていた。
もちろん現代の屋台などで出るカラフルなものではなく、竹と和紙でできたものだ。
「やっぱりお姉ちゃんだ!」
「あの時の……」
沖田さんを見ると優しく微笑みながら頷いてくれたので、私は男の子の前に行き、目線を合わせるようにしゃがんだ。
「こんにちは。あれから大丈夫だった?」
「うん!」
そう聞くと、男の子は笑顔で元気よく頷いた。
その笑顔を見れただけでも、あの時守って本当に良かったと安心する。
「こら!勝手に動くなっていつも……」
男の子後ろから、母親が小走りで向かってくる。
私は立ち上がり、母親に軽く頭を下げた。
「母ちゃん、助けてくれたお姉ちゃんだよ!」
「あっ…。あの時は、本当にありがとうございました。副長の土方様から、貴女が目を覚ましたと文を頂いたときは安心から全身の力が抜けました」
文を出したと聞いてはいたが、てっきり山南さんが出したものだと思っていて、まさか差出人が土方さんだとは知らなかった。
確認するように沖田さんの方を振り返ると、そうですと言うように頷いてくれた。
「いえ…。こちらの方こそ、お見舞いに来てくださったと伺いました。ありがとうございます」
「大層なことはしていません。……息子は、あの日からずっとあなたに憧れていて、自分も誰かを助けるようになる!って言って、家の中で木刀を振り回していて」
男の子の頭を撫でる母親は、どこか嬉しそうで、でもどこか寂しそうな顔をしていた。
