翌日。昨日沖田さんが部屋まで迎えに行くと言ってくれたので待機していると、原田さんに呼ばれ、部屋を出ることになった。
障子を開けると、原田さんだけでなく藤堂さん、永倉さん、斎藤さんが揃っていて、何故か全員目を見開いていたけれど、その理由はすぐに納得がいった。
朝目が覚めて顔を洗い、部屋に戻ると部屋の前でお雅さんが待っていた。
理由を聞くと、せっかく沖田さんとの外出なのだからと、柔らかい色の着物を持ってきてくれたのだ。
私は今まで、男の人と二人で出かけたことがない。
だからそういった意味では緊張するも、沖田さんは私を息抜きさせようと誘ってくれただけに違いない。
いつもの恰好じゃダメなのかと聞くと、お雅さんは「当り前じゃない!」と強めに否定してきた。
いつもしっかりされているお雅さんが、まるで娘の恋を応援するように私より気合が入っているから可笑しくなって、思わず笑みが零れてしまった。
お雅さんが部屋を出て少し経ってから原田さんの声が聞こえた。
私がいつもと違う、柔らかくて温かみのある色の着物を着ていたから驚いたのだろう。
気合が入っていると思われていたら少しむず痒いが、似合っていないのは自分でも分かっている。
「あの、どう…でしょうか。奥様が貸してくれたのですが」
今無性に、沖田さんが来る前にこの人たちが来てくれてよかったと思えている。
それがなぜかは分からないが、もし今会っているのが沖田さんで似合わないなどと言われてしまったら、せっかくのお出かけも楽しめていたかどうかすら怪しくなってただろう。
固まっているこの人たちに視線を彷徨わせていると、永倉さんが小さく呟いた。
「……これ、俺たちが先に見ちまったもよかったのか?」
「ダメだったかもしれねぇな」
小さな声に斎藤さんが反応し、小さく息を吐く。
何がダメなのか分からず、永倉さんと斎藤さんを交互に見ていると、原田さんが何かを思い出したのか手を叩いた。
「嬢ちゃん似合ってんな!馬子にも衣裳ってやつだ!」
「……原田さん、それ、褒めてますか?」
「褒めてる褒めてる!これでも総司のやつに気を使って、言葉考えたんだぞ!」
少し馬鹿にされた気もするが、原田さんがそういう人でないことは分かっているし、先ほどから何も話さなかった理由が可笑しくてつい笑ってしまう。
すると、またもや全員が目を見開いたので、私の頭には疑問符が浮かび始める。
「皆さん、どうかされました?……藤堂さん?って、ちょっ!?!」
皆の様子が気になり思わず声をかけ、藤堂さんが近づいてきたかと思うと、急に抱きしめられた。
突然のことに理解が追い付かず、慌てて離そうとすると余計に抱きしめる力が強くなり、押し返せない。
「と、藤堂さん?」
声をかけると、藤堂さんは小さく息を吐いた。
「普段から可愛くて、ただでさえ今日はいつもと違ってめちゃくちゃ可愛くなってんのに、その笑顔は反則だっつーの」
「えっ?あっ、いや、あの……」
小さくもはっきりと聞こえたその言葉に、動揺が隠し切れず狼狽える。
身体の体温が徐々に高くなっていくのが分かる。
身体がそっと離され、藤堂さんは私の肩に手を置いたまま、その視界から私を逃がしてはくれなかった。
「澪……ぉわっ!」
「誰ですか?私の猫に告白をしようとしているのは」
ずっと下を向いていると、視界に入った手が私の手を握り、前を見ると最近は見かけなかったラフな格好の沖田さんがいた。
また気配を消しながら近づいてきたのかと思うと、つい可笑しくなる。
大きくも優しい手は、いつだって私を安心させてくれる。
「総司てめぇ……また気配消して近づいてきたな!容赦なく引っ張りやがって!!」
藤堂さんは苦しかったのか、襟を直して首を擦っている。
「澪さんが困っていると分かっているのに、告白しようとした平助が悪いですよ」
「お、俺はただ似合っているって言いたかっただけだ!」
「……じゃあ、普通に言えばよかったのでは?」
素朴な疑問を口に出すと、藤堂さんは口を噤み、他の人たちは声を殺して肩を小さく震わしている。
こちらを振り返った沖田さんもなぜか苦笑いをしていて、その顔には「貴女って人は…」と書かれているように見えた。
「あー…苦しかった。そういえば総司、お絹ちゃんまた来てたぞ。薬届けに来たっつーけど、ありゃあ完全に総司目当てだな」
頷きながら話す藤堂さんの頭を、永倉さんが「馬鹿かっ」と言いながら容赦なく叩く。
そのお絹という人が誰だか分かっていないのは私だけらしく、空気が一気に気まずくなった。
