「そうですよ」
不意に声が聞こえて顔を上げると、見廻りが終わった沖田さんと斎藤さんと隊士の方が数名戻ってきた。
土方さんは最近忙しそうで、お叱りを受けた日以来、食事を運ぶときや訓練の時でしか姿を見かけていない。
「お帰りなさい」
「ただいま戻りました」
他の隊士の方たちは頭を下げ、それぞれ屋内へ入っていく。
私はそれとは反対方向に足を進め、土間に向かい帰ってきた方々へのお茶出しの用意をする。
時々お茶は不要だと断られることもあるが、体が自然と土間へ向かうようになってしまって、声をかけられないことにはお茶を用意することが習慣になってしまっている。
相変わらず帯は一人ではつけれないけれど、それ以外は屯所内での仕事は大抵一人でできるようになった。
それもこれも全て、居場所や仕事をくれた近藤さんたちのおかげだ。
「どうぞ」
「ありがとう」
湯飲みを配る時に、自然と地位の高い人から順に渡している自分がいた。
特に誰から教わったということはなく、ここに来てお雅さんから教わったのは、「お客様がおる時は、まずお客様から」ということだけだ。
それはここに来て初めて覚えたことの一つで、現代でも活かせるようなことばかり教わっている。
家に客人が来ることがあまりなかった私にとって、お雅さんの教えはどれも宝物だ。
現代に戻れたとしても、ここで教えてもらったことは絶対に無駄にはならないと思うし、無駄にはしない。
そう考えながら全員の湯呑みを配り終わると同時に、誰かの視線を感じて顔を上げる。
すると、沖田さんがこちらを見ていた。
「どうかしました?」
そう尋ねると、沖田さんは目を細めながら湯呑みと私を交互に見つめた。
「すっかり、女中の仕事が板についたなと思いまして。初めの頃は慌ただしくて、見ているこっちが怖かったですから」
「ははっ!違いねぇ!」
沖田さんの返答に永倉さんが声を上げて楽しそうに笑い、山南さんも静かに笑っている。
あの頃は、ここと現代での掃除の仕方の違いであったり、言葉遣いや風習を覚えていくので精一杯だった。
それでもここまでやって来れたのは、周りの支えがあったからだ。
