それでも、何度も新選組の屯所に来ては町人の目や根も葉もない噂が立つため、噂が立つ前にもう来ない方がいいという山南さんの提案で、「いつか会える時がありましたら、その時はお礼させてくださいとお伝えください」と言い残し、それ以来来なくなったという。
もちろん、私が目を覚ましたことは文に書いて伝えたらしい。
永倉さんの話だと、前に見回りの時に親子を見かけたが元気でやっているらしいと山南さんが教えてくれた。
この幕末動乱期の真っ只中で、あの親子にいつ会えるかは分からない。
けれど、元気で笑ってる姿を見たいに越したことはないから会えたらいいなと願っている。
私の記憶が本当に合っているのなら、もうすぐ新選組の大きな転機となる"あの事件"が起こる。
来て欲しくないとは願えど、歴史を変えてはいけないし、変えることはできない。
「隊士の皆さんの様子は、どうだったんですか?」
「あぁ……」
その問いに山南さんは頬を掻きながら笑った。
薄い意識の中で空気が冷えたのは何となくだが感じていた。
「それなぁ、本気でやばかったぜ」
どこから聞いていたのか、山南さんとは反対の方向から永倉さんが歩いてくる。
「俺や平助は浪士共を抑える手にかなり力入ったし、原田や源さん、一なんかはすぐにでも斬りかかる勢いだった。山南さんも、な?」
永倉さんが山南さんに問いかけると、山南さんは「まあ、流石に頭に来ましたし……」と、どこか反省しているような困ったような顔をした。
永倉さんは障子に凭れるようにして腰を下ろし、話を続けた。
「ま、いちばんやばかったのは言わずもがなだが、総司だな。あいつが静かにキレる時ほど、怖いもんはねぇよ」
永倉さんは笑っているが、そんな沖田さんはもう二度と見たくないとでも言っているような口振りだ。
山南さんを見ると、山南さんも縦に首を振っている。
この約一年間で隊士の人達の食の好みとか大体の性格は分かったものの、沖田さんだけは未だに分からないことだらけだ。
多分、彼のことはいつか現代に戻る時が来たとしても、その時まで分からないのかもしれない。
線引きが上手いというか、いつも優しい笑顔で何を考えているか本当に分からない。
一つ分かっているのは、驚くぐらい心配性ということだ。
私にとっては、沖田さん自身の身体を大切にして欲しいのだけれど。
