「あの、その人嫌がっていますけど」
私は近くにいた人に脇差を借りると、親子を背に浪士の前へと立った。
怖くないと言えば嘘になるが、何故かこの人たちは沖田さんより強いとは思えない。
震える手に力を込めて、脇差を強く握る。
武器は違えど、こうしていると本当に命を取ってしまいそうで怖くなる。
命のやり取りが当たり前のこの時代で、そんな甘いことを言っているのは百も承知だ。
持ったからには、それ相応の覚悟を持たなくてはいけない。
それは、隊士の人たちを見ていてわかっているつもりだ。
現に近くで、誰よりも熱くて優しい不器用な人を一人失っているのだから。
「何者だ?貴様」
「私が何者かなんて、あなたたちには関係ありません」
私は脇差を握り直し、浪士たちを真っ直ぐ見据える。
母親の方は腰を抜かしたようで、今すぐには動けそうにない。
息子さんの方は宗太君と弥吉君の間の年齢といったところだろう。
けれど母親が絡まれ、その上真剣を抜かれては泣いて怯えない方がおかしい。
「話を聞くつもりなんてないと思いますが、一応お伝えします。今すぐ、刀から手を放してください」
口が震えているのを悟られないように、少し長めに話す。
口以外にも全身が震えており、悟られないように腕や足にも力を入れる。
すると、もう一人の浪士が私を観察するように見た後、刀に手をかけている浪士の耳元に口を寄せて話し始めた。
「やはりな。全ては予定通りというわけか」
話し終わると、浪士がいやらしい笑みを浮かべて私を下から嘗め回すように見始める。
直接会話をする機会はなかったけれど、この視線は初めて芹沢さんの部屋に入った時の新見さんと同じだ。
背中が震え上がり、今すぐ逃げ出したい衝動に駆られる。
それでも、どんなことがあってもあの人たちは絶対に逃げ出さない。
「幕府の犬の女風情にどこまでできるか、試してやろうじゃないか!」
大きな声と共に、浪士は刀を抜いてこちらに向けて真っ直ぐ走り始めた。
それを迎えるように、私も借りた脇差を抜いて鞘を隅に置く。
借りたものは何であれ、どんな状況であれ粗末に扱ってはいけないという、父親からの教えだからだ。
「幕府の犬って……新選組?」
「じゃあ、新選組の女っていうのは……」
ふと周りからそんな声が聞こえてきて、視線を一瞬周りの人に移す。
すると、その視線に気づいた者たちが半歩後退っていく。
今日の治安を守るために働いているのに、町の人たちにこうも怯えられては仕事のし甲斐がないはずだ。
それでも町と町の人を守るために働いている彼らには、頭が上がらない。
