あれから、どうやって部屋に戻ったかは覚えていない。
気づけば朝になっていて、ぼんやりと天井を見つめていた。
何も考えたくないのに、瞼を閉じると昨夜のことがはっきりと映る。
生臭い血の香りから、雨の音まで全部。
ーーあれ……?
昨夜のことを思い出すと同時に、何だか懐かしい香りと感触に違和感を覚えた。
ゆっくり体を起こして辺りを見渡す。
机の上には開きっぱなしの教科書とノート、充電中のスマホが置かれている。
布団も柔らかくて、窓辺には室内用のフレグランスも置かれている。
ここは、私の部屋だ。
そっか……。私、現代に戻ってこれたんだ。
嬉しいはずなのに、どうしてこんなにも寂しいと思ってしまうのだろう。
ーー「……………?」
ーー「……………でしょう」
母親や父親の声じゃない声が聞こえて、思わず後ろを振り返る。
でも、そこにあったのは家族の写真と、幼い頃に剣道大会で優勝した写真だけだった。
多分、初めてあの二人と会った時のことを思い出していただけだろう。
「澪ー!朝ご飯できたよー!」
「はーい」
一階から聞こえてきた母親の声に返事をして、部屋のドアを開ける。
すると、我が家は観葉植物など置いていないのに、ほんのり土の香りがした。
なぜだろうと頭に疑問符を浮かべながらも、慣れた足取りで階段を下りていく。
「おはよう」
「おはよう、澪」
「おはよう、お母さんお父さん。美味しそうー」
リビングに入り、食卓に並べられた色鮮やかな朝食に、思わずお腹が鳴る。
その音を聞いた両親が、クスクスと笑う。
「さあ、食べましょうか」
「いただきます」
三人で声を揃えて、それぞれ好きなものから食べ始める。
温かくて美味しい。今の当り前が、昔は全然違ったんだなとふと思う。
ーー「…………さん」
朝食を食べていると、誰かに名前を呼ばれた気がして振り返る。
「澪?どうしたの?」
「……今、私の名前呼んだ?」
「いや?母さんと話はしていたが」
「まだ寝ぼけてるんじゃないの?後でもう一度、顔洗ってきなさい」
母親は笑いながら、箸の手を進めた。
でも確かに、今名前を呼ばれた気がする。
気がするというだけで、実際に誰も私の名前を呼んでいないから、母親の言う通りまだ寝ぼけているだけかもしれない。
私は前に向き直って、箸の手を進める。
その途端、視界が急に暗くなった。
タイムスリップしたときの霧とは違う、映像などが暗転するときみたいな感じだ。
せっかく現代に戻って、温かくて美味しい朝食を食べていたというのに。
