八木邸に帰り、お雅さんに買い物の品を渡して、私は前川邸に移動した。
前川邸は八木邸のすぐ近くにある。
護衛はいらないと伝えたが、沖田さんは強制的に斎藤さんと永倉さんを護衛につけた。
隊の中では一番話さない人たちだから、少し気まずさがある。
「俺も参加したかったなぁ。芹沢の粛清」
「どこで嬢に聞かれるか分からん。あまり大きな声で言うな」
お風呂から上がり、縁側を歩いていると、斎藤さんと永倉さんの会話が聞こえてきて咄嗟に物陰に隠れる。
今、聞き間違いでないのなら、永倉さんは確かに"芹沢の粛清"と言った。
土方さんの伝言と言い、沖田さんのあの表情は、今夜のことを知っていたから?
女中の私には言えないことだったとしても、私の身を案ずるための避難や護衛だったとしても、一言くらい伝えてほしかった。
いや、他所から来た私を信用しきれていないという事だろう。
私は、芹沢さんから新撰組の皆へ伝言を預かっている。
芹沢さんはきっと、今日のことを予感していた。
だから私に、伝言と文を預けたに違いない。
この世界は、歴史で知るものとは少し違っていた。
ネットで見た時は、芹沢さんの粛清の後に新選組に名を改めると書かれていたけれど、実際は芹沢さんが生きているときに新撰組へと改名していた。
私は今まで、この世界をちゃんと知ろうとせず、ただ過ぎていく日々に置いて行かれないように縋りつくだけだった。
でも、もう逃げたくない。
ちゃんと知らないといけない。この新撰組の人たちの生き様と散り様を。
私はその場を後にして、部屋に行き、浴衣の上から羽織を着て、芹沢さんからの文を布に包む。
雨が降っているから、濡れないように胸元に隠すように入れて、静かに部屋を飛び出した。
「しかし、あんな総司は初めて見たな」
「ああ。嬢のことになると、あんなにも心配性になるものなのだな」
「総司の弱点かもな。って、どうした?」
「微かだが、門の開く音がした」
「まさか……!」
そんな会話が繰り広げられていたなんて、私は知る由もなかった。
