「おい娘、芹沢とは関わるなと言ったはずだが……何を吹き込まれた?」
町の喧騒の中、土方さんの低い声がやけに大きく聞こえた。
確かに、芹沢さんに挨拶に行った後に関わるなとは言われた。
だからすぐに退こうとした。
だけど、誰があの場で誘われることを予想していただろうか。
私は新選組については調べ始めたばかりで、芹沢さんに関しては何も知らない状態だった。
芹沢さんだけではない。
土方さん以外の隊士の人たちのことも何も知らない。
沖田さんをほんの少し知った程度だった。
だけど、自慢ではないけれど、私は人を見る目はある方だ。
芹沢さんは、ただの恐ろしい人ではなかった。
それなのに、私より芹沢さんを知るこの人たちが、真剣に向き合おうとせずに嫌っているのが、何だか腹が立ってくる。
ここは、嘘や裏切りが当たり前の時代。
それは、塚井先生が一番最初に話した内容だった。
私に彼らを怒る権利はなくとも、内心腹を立てることは許してもらいたい。
「お言葉ですが、土方さん」
笊を持つ手に少し力が入る。
声をかけると、土方さんは少しだけ私の方に体を向けた。
それに答えるように、体ごと土方さんの方を向く。
「芹沢さんとは、偶然お会いしただけです。土方さんに"関わるな"と言われていたので、すぐに失礼しようとしました。ですが、ついてくるように言われたんです。女中の立場で、筆頭局長のお誘いを断ることはできませんから」
「何に誘われたんです?」
「……お茶です。ついていった先は茶屋で、少しお話をしながらお茶をしただけです」
いつまでも土方さんの鋭い視線に怯えてなどいられない。
勇気を出して、できるときは意見をしないと流されてしまう。
土方さんの鋭い視線は逸れることなく、ただただ私を捕捉していた。
「……随分と、庇うんだな」
「庇うも何も、事実を言っているだけです」
捕捉してくる目に噛み付くかのように、私も土方さんを真っ直ぐと見る。
今はまだ、伝言のことは話せない。
預かった文を見られる前に、ここから立ち去りたい。
「……奥様がお待ちみたいですので、お先に失礼します」
二人に頭を下げ、背中を向けて歩き出す。
すれ違う人達の視線も集まってきていたところだったから、ちょうど良かったのかもしれない。
