「あれ、澪出かけるの?」
お雅さんに渡された竹笊と買うものが書かれた紙を持って玄関を出ようとすると、後ろから藤堂さんに声をかけられた。
そしてそのまま、玄関に腰を下ろした。
「はい。買い物に」
藤堂さんは「へぇー」と、なぜ聞いたのだろうと思うような反応をした。
「澪はさ、行ってきますの意味って知ってる?」
「行ってきますの意味…ですか?」
行ってきますは挨拶の言葉で、物心がついたときには普通に使っていた。
藤堂さんはいきなり何を言いだすのだろう。
でも、何となく気になり、藤堂さんの横に腰を下ろす。
「行ってきますは、"今から出かけます。そして、また帰ってきます"っていう意味で、必ず帰ってくるという思いが込められているらしい。そして、行ってきますに対して行ってらっしゃいって言うだろ?それにも意味があるんだよ。行ってらっしゃいは、"行って、必ず無事に戻ってきてください"という意味なんだって」
普段から使っている挨拶なのに、そんな意味があったなんて知らなかった。
藤堂さんはなぜこんなことを知っているのだろう。
誰かに教えてもらったのだろうか。
「では、おかえりやただいまにも意味があるのですか?」
「もちろん」
「ただいまってさ、帰る場所があるから言える言葉なんだよな」
藤堂さんは空を見上げながら教えてくれた。
ただいまは"ちょうど今、帰りました、戻りました"という意味があり、おかえりは"無事に戻ってきてくれてありがとう"という意味があるらしい。
向こうでは何気なく使っていても、ここでだと、とても重く、大切な言葉に聞こえる。
なぜそれを私に教えてくれたのかは不思議だけれど。
「まあ、昔局長に聞いた話なんだけどな!じゃ、気をつけてな!」
「行ってきます」
「おー、行ってらっしゃい!」
藤堂さんに笑顔で見送られ、私は買い物に向かった。
