「……ありがとうございました」
軽く頭を下げたまま、痺れている両手を見る。
いろんな大会で強い人たちとも戦ってきたけれど、手加減されているのに一手も入れられないなんて初めてだ。
男と女の力量の差はどうしても埋められない。
だからこそ、その差を少しでも埋めるようにランニングや筋トレをしてきた。
この時代を生きていくには、もっと素振りをして腕に力をつけないといけない。
近藤さんに許可を取れたらいいのだが、そもそもそんな時間がないだろう。
仕事をしていたら、あっという間に一日が終わっている。
向こうでも一日が過ぎるのが早いと感じていたが、ここに来て余計にそれを感じている。
「みおー!」
落ちた木刀を拾うと、宗太君と弥吉君が駆け寄ってきた。
「びっくりしました。お強いんですね」
「まあ、おれには遠く及ばないけど!」
両手を腰に当ててドヤ顔をする弥吉君の可愛さに、緊張の糸が解けていく。
「そうだね」と微笑みながら、弥吉君の頭を撫でる。
弥吉君は頭を撫でられるのが好きらしい。
それを見ている宗太君も、言わないだけで本当は自分も撫でられたいのだと、お雅さんが教えてくれた。
弥吉君や両親の前では、頼れる兄でいようとしているのだろう。
宗太君の頭を撫でると、照れながらも嬉しそうな顔で微笑んだ。
その子どもらしい笑顔が弥吉君と似ていてすごくかわいく、私も小さく笑みがこぼれる。
「女性である貴女があれほどの力……。相当努力されたのでしょうね」
沖田さんが、自分の手と私を交互に見る。
「へぇー。嬢ちゃん、そんなに力強えんだ?」
「平助になら、澪さんも勝てそうですね」
沖田さんは悪戯な笑みを浮かべた。
この人はどうしてこう、人を困らすのが好きなのだろうか。
「おーおー、言うねぇ?だったら俺と───」
「ですが、澪さんは夕餉の支度もありますので」
藤堂さんが何かを言いかけたけど、沖田さんが容赦なく遮る。
「おい総司、お前、嬢ちゃんのことになると他人に厳しすぎないか?」
「もしかして……惚れちゃった!?」
原田さんと藤堂さんが、顔を見合わせてにやりと笑う。
「あまり馬鹿なことを言うと、容赦なく斬りますよ?」
「おー、やってみろよ」
笑顔のまま、カチッと刀の鍔を上げる沖田さんの姿に思わず身震いする。
それに乗る原田さんもどうかと思うけれど、これが日常なのだとしたら少し恐ろしい。
「あ、あの!たとえ冗談だとしても、宗太君たちがいますからその辺で……」
声をかけると、沖田さん原田さん藤堂さんが一斉にこちらを見た。
数秒の沈黙の後、沖田さんは刀を納め、原田さんも長い槍を下した。
「私は夕餉の支度があるので、失礼します。宗太君と弥吉君もお家の中に戻ろう?」
「はい……」
二人の背中を軽く押すように手を添えて、家の中へ入る。
「もしかして俺ら……澪を怒らせちゃった感じ?」
「二人が変なことを言うからですよ。まったく……」
「先に斬りかかろうとしてきたのは総司だろ!」
背後でそんな会話を聞きながら、私は調理場へ向かった。
