「にしても、顔は幼いが、まあ……悪くはないんじゃないですかねぇ。ねぇ?芹沢先生」
その言葉に再び視線を落とす。
名前は分からない。けれど、その男の声も視線もひどく気持ちが悪かった。
ここに来てからというもの、初めての感情ばかりだ。
恐怖や今みたいな嫌悪感なんて、現代では殆ど感じたことがなかった。
それだけ平和な世界にいたんだと、ここで過ごす時間が増えていく度に思い知らされていく。
「……失礼」
声が聞こえると同時に、大きくて優しい手が肩に触れた。
顔を上げなくても分かる。沖田さんだ。
「新見、その辺にしておけ。鬼が出るぞ」
「誰が鬼ですか」
声は低く、いつもより冷たさを感じるのに、触れる手は優しくて温かいままだ。
軽口を叩けるような雰囲気でもないのに、そういうやり取りができるのは二人の関係性があるからなのだろう。
静まり返った空気の中、私は再び視線だけを上げる。
新見と呼ばれた人は、いやらしい笑みを浮かべたまま、芹沢さんの方を見た。
それに釣られるように、芹沢さんに視線を移す。
芹沢さんは何も話さず、ゆっくりと盃を口に運んだ。
「……下がっていい」
「では、失礼します」
「澪さん、立てますか?」
「はい……」
沖田さんの手を借り、立ち上がって部屋を出る。
部屋を出るときに少し振り向いて、芹沢さんに視線を移す。
興味なさそうに盃に注いで飲んでいるけど、本当は助けてくれたんじゃないかと心の隅で感じてしまう。
この部屋の匂いはどうにかしてほしいけれど。
