「失礼します」
障子を開けて入る近藤さんに続き、芹沢さんの部屋に入る。
入った瞬間、甘い白粉の匂いと煙草の匂いが鼻を掠めた。
白粉は現代で言う化粧品で、こちらでは芸妓さんや島原で働く遊女の方々が主に使っていると、お雅さんが教えてくれた。
白粉の酔いそうな匂いに耐えながら、芹沢さんの前に座る。
「芹沢先生、彼女がここで働くことになった女中の澪です」
「お初にお目にかかります。一之瀬 澪と申します」
そう言って頭を下げる。
近藤さんの時も頭を上がるのが怖かったが、今回の方が断然怖く感じる。
けれど、いつまでもそのままなわけにもいかず、ゆっくりと視線を上げる。
すると、真正面から鋭い視線が突き刺さり、すぐ視線を戻した。
土方さんの時とはまた違った威圧感に、息が詰まる。
「……澪、か」
煙草の息を吐くと同時に発せられた、低くて小さめな声。
名前を呼ばれただけなのに、背筋が凍り付くような感覚が走った。
「頭を上げろ」
「…………はい…」
言われた通りに頭を上げる。
前を見ると、私から見て芹沢さんの右側に座っている二人が、いやらしい笑みを浮かべながらこちらを見ていた。
横にいるということは副長なのだろうけど、その視線がどこを見ているかなんて一目瞭然だ。
だが、敢えて気づかないふりをする。
そんなことに気を取られるほど、今は余裕がない。
芹沢さんは煙草を吸い、「ふーっ」と息を吐いた。
「近藤」
「はい」
近藤さんを呼んだ芹沢さんは一瞬、私を見て口角を上げた。
「妙なもんを拾ってきたな」
それは、私が剣を使えると見透かしての言葉なのだろうか。
芹沢さんをよく知らない私でさえ、分かる。
ここで働くようになって、隊士さんたちの強いオーラを感じてきたけど、この人だけは別格だ。
周りにある物全てを武器にしそうな、こうして部屋にいる今でさえ隙が無い。
私は未だ、ここにきて驚くことしかできていない。
素振りの一回や二回出来ればいいのだけれど、そんなことをしたら土方さんにまた怪しまれるに違いない。
