幕末の京に迷い込んで早くも数ヶ月が経った。
ここの夏は現代よりも暑く、家電なんて便利なものは当然なく、過ごすのに苦労した。
葉も少しずつ色づき始め、残暑はあるが、秋が始まった。
最初は慣れない着物で、水を運ぶだけでも息が上がっていたのに、今では足取りも軽い。
迷い込んだ当初は何も分からず、戸惑いしかなかったこの屯所での生活ももう慣れてきた。
今では、不思議と落ち着く場所になっている。
奥さんのお雅さんも丁寧に仕事を教えてくれて、たまに子どもたちの子守りもしている。
覚えることがたくさんあり、隊士の方たちとはまだ話せていないけど、最近は人間観察する余裕も出てきたくらいだ。
一日三食の食事作り、洗濯、家中の掃除、そして子どもたちの子守り。
それが、今の私の仕事だ。
忙しいはずなのに、楽しいと感じている。
「みおー!あそぼー!」
洗い終えた布を一枚ずつ広げて干していると、八木家次男の弥吉君が笑顔で飛びついてきた。
元気な声が庭に響く。
先日初めて会った時は、お互いに緊張していて上手く話せなかった。
でも、数日一緒に遊んでいると緊張が解けて、今みたいに私の名前を呼んでは飛びつきに来るようになった。
順応性が高いというか、さすが子どもというか。
「こら、弥吉。走るなって言っただろう」
少し遅れて、長男の宗太君もやってきた。
弥吉君の二歳年上のお兄さんで、無邪気な弥吉君とは反対に落ち着きのある子だ。
私は、弥吉君の目線に合わせるようにしてしゃがんだ。
「……ごめんね、まだお仕事があるの。あとで一緒に遊ぼう?」
「えー」
やんわり断ると、さっきまでキラキラしていた目が、寂しそうに曇る。
不満そうに膨らむ頬を見て、小さく笑みがこぼれる。
私には下に弟妹はいないから、こういうのはなんだか新鮮だ。
「駄目ですよ」
弥吉君の可愛さに、胸の奥が優しい温もりに包まれていくのを感じていると、横から声がした。
声の方を見ると、沖田さんが縁側に立っていて、その後ろから藤堂さんも顔を出した。
「そうだぞー。澪は、俺たちを支えるという大事な仕事があんの」
「その代わり、私たちが遊んであげますから」
「ほんと!?」
「ええ」
弥吉君の曇っていた顔は、一気に明るくなった。
立ち上がって会釈をすると、沖田さんは気にしないでとでも言うように手を振って子どもたちと遊びに行った。
