それから、流派についても聞かれた。
以前、父親が『うちの道場は天然理心流の末裔だ』とか言っていたけど、そんな事言えるはずがない。
なぜなら、壬生浪士組の近藤派は全員、その流派の剣士なのだから。
第一、本当に天然理心流の末裔なのかも分からない。
いつか、現代に戻れたら、道場の歴史について父親に聞いてみるのもありかもしれない。
「澪さん、これは提案なのだが…。行く宛てがないのだろう?」
「……はい…」
行く宛てがない。まさにその通りだ。
事情を話せない私なんかを置いてくれる場所なんて、きっとどこにもない。
手元に視線を送り、拳を強く握りしめた。
「澪さんさえいいのなら、ここで働かないか?」
「……えっ」
思いもよらぬ言葉に、ポカンとした顔で近藤さんを見る。
すると、近藤さんだけでなく、山南さんと沖田さんも優しく微笑んだ。
「ここ、八木さんのお宅を我ら壬生浪士組の屯所とさせてもらっているんだけどね、八木さん夫婦にはお子さんが二人いるんだよ」
話し始めた近藤さんは、どこか申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「ですので、あなたがここで働いてくれるのであれば、八木夫妻……特に奥方であるお雅さんは、少しでも楽になるということなのです」
近藤さんに続き、山南さんが説明をしてくれた。
いくら私でも、それは建前に過ぎないのだと気づいてしまった。
事情も話せない、素性も知らない私をここに置くなんて、彼らにとってはリスクでしかないはずなのに……。
これは、彼らなりの精一杯の気遣いなのだと気づいてしまったのだ。
その途端、視界が急激に歪んでいった。
泣くのは……いつぶりだろう。
「…………よろしく、お願いします……」
溢れそうになる涙を堪えながら、私は深々と頭を下げた。
「こちらこそよろしく、澪さん」
近藤さんの声が、優しさが、胸の中で温かく広がっていくのが分かる。
この決断をするのに、どれだけ時間がかかったり、話し合いをしたのかは予想できない。
ただでさえ、私は阿比留鋭三郎という名前を知っていた。
普通は警戒して追い出すのが筋だというのに、追い出すところか局長副長自ら、働かないかという提案を出してきた。
その寛大な心に、私は心を打たれた。
もしも昨日、沖田さんと土方さんに出会っていなかったら、私は早くもこの見知らぬ世界で命を落としていたことだろう。
そう考えるだけでも背筋が震え上がるほど、この世界は恐ろしい。
私がそれを知るのは、数ヶ月先のことだった──―。
