敷地に足を踏み入れたけど、ここが新撰組の屯所だと思うと、全然落ち着かない。
「沖田さん?……昨夜からお姿がお見えにならないと思えば、女性を連れて朝帰りですか?」
中に進んでいくと、三十代後半ぐらいの女性が白い布がたくさん入った桶を持って、慣れた足で縁側を歩いていた。
昨夜からって、私がお店を飛び出した後のことだろう。
でも、雰囲気はどことなく母親に似ている。母親の方がもう少し上だけど。
「違いますよ、奥さん。路地で倒れていた野良猫を探しに行ったまでです」
沖田さんはくるりと私の方を向き、悪戯な笑みを浮かべた。
野良猫とは、もしかしなくても私のことだろう。
人のことを野良猫と呼ぶのは如何なものだろうと思いながらも、女性に会釈をする。
すると、女性は驚いたような顔をしてから、桶を抱えたまま小走りで近づいてきた。
ここが幕末の京という現実味が湧いてから、この時代の人たちの格好にも驚かなくなってきた。
見たところ、女性は着物で髪は結うのが決まりらしい。
誰に聞いたわけでもないけど、すれ違う人々を見ていたら、何となくそう感じた。
女性が袴というのも変らしいけど、現代のお洒落な服ではなく袴でよかったと安堵する。
「まぁまぁ、こんなに汚れて……。どうぞこちらへ」
沖田さんの方を見ると、優しい微笑で頷いた。
戸惑いながらも女性の後を追う。
私が動き出すのとほぼ同時に、沖田さんも歩き出した。
