何かを言わないといけない。
さっき初めて二人を見た時のように、口が震える。
「……道場で稽古をしていて」
震える口からやっと絞り出した声は、自分でも驚くほどに小さかった。
「……気が付いたら、さっきの路地裏に」
何とか言えたと、心の中で安堵する。だけどそれも束の間。
私が話し終わった数秒後、土方さんは意味が分からないとでもいうようなため息をついた。
そのため息に、体がビクッと跳ねる。
「……私からも、お聞きしていいでしょうか」
目線を恐る恐る上にあげ、土方さんと沖田さんの顔を交互に見る。
「あの……、今は何年の何月何日で、ここはどこなのでしょうか」
「は?」
やっと聞くことができた。
場所と年月日を知らないことには、何も知ることはできない。
私の言葉に反応したのは土方さんだ。
低い声で短く放ったあと、沖田さんと顔を見合わせ、二人ともまたもや意味が分からないという顔で私を見てきた。
私が倒れたのは夕方だ。だけど空の青さからして、今は昼時なんだろう。
ということは、半日以上眠っていたことになる。
なぜ道場や家、病院ではなく路地裏……しかも、土の上で目を覚ましたのかは分からない。
「今は、文久三年の五月三十日で、ここは京の都ですが」
「ぶ、文久三年五月三十日…………?」
文久三年は確か、一八六三年。
路地裏で聞いた壬生浪士組というのが本当なら、五月三十日だととっくに会津藩のお預かりということだ。
いや、違う。そうじゃない。
なぜ、そんな世界に私がいるの?
私は確か、塚井先生の話に興味を持って、図書館に新撰組について調べに行った。
そしてそのあと、朱莉や颯と共に八月の部の大会に向けて、父親の道場で部活外の稽古をしていた。
父親と二戦目をするという時に、視界に霧がかかって、それは次第に濃くなっていって私は倒れた。
それで、目が覚めたら幕末の世界……?
混乱していた頭が、徐々に整理を始めていく。
私自身、こんなに慌てるなんて始めてだ。
タイムスリップなんて非現実的なこと、あり得るわけがない。
もし本当にここが文久三年で幕末の世界なら、食事や服装、町の風景にも納得がいく。
それに、土方さんや沖田さんの、私を不審に思う気持ちも。全て。
信じられないけど、私は百何十年前にタイムスリップしてしまったようだ。
