佐戸さんという人に席を案内され、入り口から左手にある座敷に腰を下ろす。
私は草履も履いていなければ足袋も履いていないから、足の裏の土を払ってから座敷に上がった。
「まだ名前を聞いていませんでしたね。貴女の名前は?」
「……澪。一之瀬 澪と言います」
「澪、ですか。いい名前ですね」
名前を答えた後、私は軽く頭を下げた。
そして、壁にかかっている木札に書かれたメニューらしきものを見ていく。
でも、注文しようにも文字が読めず、注文ができない。
とりあえず『天』という文字が見えたから、それを注文する。
何が出てくるかは正直分からない。
でも、栄養士の資格を持っている母親のおかげで、十七年間好き嫌いはしたことがない。
だから、不味い料理が出てこない限り、大概何でも食べられる。
「はい、お待たせ。天ぷら定食」
「天ぷら……」
気が付いたら道場ではなかったけれど、お盆に載ったご飯やおかずたちを見ると、やはり映画の撮影か何かなのだろう。
きっと今は休憩中かで、スタッフやカメラマンがいないだけだ。
揚げたての天ぷらは茄子と南瓜と獅子唐、湯気が立ち昇る味噌汁の具は大根。
その中で一つ気になったのは、白米ではなく茶色のご飯。
それ以外の見た目は普通だし、小皿にのっている沢庵もスーパーとかでよく見るやつだ。
どれも美味しそうだけど、茶色いお米がどうしても気になってしまう。
すると沖田さんが不思議そうに、「食べないんですか?」と聞いてきた。
私は慌てて手を合わせ、そっと箸を持つ。
「……いただきます」
まずは家でもよく食べていた沢庵を一切れ掴んで口に入れる。
色は白だけど、自家製なのかよく使っていて触感もコリコリしていて美味しい。
次に天ぷら、その次は味噌汁と、順番に口の中へ運んでいく。
揚げたてだから少し熱いけど、食べた瞬間にサクサクとした衣が音を立てる。
