視界にはまだ霧がかかったままで、どれくらい意識を手放していたのかは分からない。
だけど、音を拾えるほどには少しずつ意識がはっきりとしてきた。
地面に直に触れている肌から、ざらざらとした感触がする。
これは……土の匂いだろうか。
季節によって温度が変わるコンクリートじゃないことだけは確かだ。
でもこれが夢なら、足音とか感触がやけにリアルすぎる。
聞こえてくる音は、よく聞き慣れたスニーカーやヒールの音じゃない。
一体、ここはどこなんだろう……。
ーー「……………のか?」
ーー「……………ですよ」
近くで男性の声がする。
低くてどこか尖っているような声と、低くも高くもない穏やかな声。
どちらも颯や父親の声ではない。
何か話しているみたいだけど、意識がまだ完全に戻っていないため、最後の方しか聞き取れない。
ーー「………つもりだ」
ーー「………にもいかないでしょう」
この声と共に、私の視界の霧も少しずつ晴れていく。
指先を動かして体が動くことを確認して、地面に手をつきながらゆっくりと体を起こす。
曇り空から太陽が顔を出したかのように、視界の霧が晴れて辺りが少し眩しい。
最初に視界に入ったのは、声の主であろう二人の履物だ。
草履……。それに足袋……。
この人たちも剣道を習っているのだろうか。
「あの、大丈夫ですか?」
顔を上げると、長い髪を高い位置で一束に纏めた優しそうな男性の顔が、私の目線と同じ高さにあった。
距離の近さに驚いた私は、思わず後ろに後退る。驚いたのはそれだけじゃない。
二人の腰には刀が備わっているのだ。
辺りを見て、手の近くに転がっている竹刀を手にして立ち上がり、二人に剣先を向けた。
