その日の夜、私はリビングで両親とご飯を食べていた。
幕末のご飯も美味しかったけれど、やっぱり色鮮やかなご飯を目の前にすると自然とお腹が鳴る。
昨日家に帰ったら、父親が泣きながらきつく抱きしめてきた。
朱莉や母親、そして父親の泣き顔を見ると、本当に心配かけてしまったんだなと痛感した。
原因は疲労となっていて、しばらくは道場での稽古を休むように父親から言われた。
けれどなりたいものがある私には、休むことなんてできない。
他愛もない話をしながら食事を終え、私は両親に声をかけた。
「お父さん、お母さん、今いい?」
「何よ、改まって」
洗い物をしていた母親は手を止め、新聞を読んでいた父親は新聞を畳み始める。
「あのね、私……剣道の師範免許を取りたい。そして、医学部のある大学に行きたい」
新撰組の刀を振る姿は怖かったけど、とてもかっこよかった。
今の世の中では刀は銃刀法違反になってしまうけれど、竹刀を振るには問題なく、師範免許を取って子どもたちに教えていきたい。
何とかハラスメントが増えるこのご時世で強い言葉は言えなくても、教わる子達が楽しいと思うような師範になりたい。
「今からじゃ間に合わないかもしれない。でも、どれだけ遅くなっても、医学部を目指したい。医者になって、病気で苦しんでる人を助けてあげたいの!」
自分がこんな感情的になるとは、夢にも思っていなかった。
私はずっと、新撰組の人達に守られてきた。なのに私は、彼らに何もしてあげられなかった。
それがすごく悔しくて、苦しくて、つらかった。
だから、その罪滅ぼしはないけれど、救える命があるなら誰彼構わず手を伸ばしたい。
誰かが、私みたいなつらい思いをしないように。
「澪は成績優秀だし、大丈夫じゃないか?」
「えっ……?」
「そうねぇ。たしか、雲原さんの上の息子さんがこの時期から医学部目指して猛勉強して、受かったって。今度話聞いてきてあげる」
意外にもあっさりとした返事で、お願いした私が一番驚いている。
「………いいの?」
ゆっくりと顔をあげて、恐る恐る聞くと、両親は顔を見合せて優しく微笑んだ。
「当たり前じゃない。初めてだもん。澪が自分から何かをやりたいって言ったの」
そういえば、剣道は自分からやりたいと言って始めたわけではなかった気がする。
母親の言葉に、父親が腕を組みながら首を縦に振る。
「あなたはずっと感情が表に出にくかった。けど、倒れて目が覚めた翌日、久しぶりに笑顔が見れた。お母さんたちは、それだけでも充分嬉しいんだから!」
そう言った母親の目からは、一粒の涙がこぼれ落ちた。
感情が表に出るようになってからというもの、私はすごく泣き虫になったような気がする。
母親の涙を見て、微笑みながらもらい泣きしている。
そんな私を見て母親は私のそばに来て、頭を撫でたあと、優しく抱きしめてくれた。
温かい──。母は強しという言葉の中に、この安心する温かさも入っているのだろうか。
──ねぇ、総司さん。私、将来のやりたいことが決まったんです。
貴方のように厳しく、かつ優しく、剣道という名の剣術を教えていきたいと思っています。
貴方がかつてそうしていたように。
初めての恋が、時代を越えたあなたとで本当に良かったです。
