《沖田総司が愛した女性については詳細な記録が残されておらず、現在も謎に包まれているようです》
「あんな綺麗な簪をもらって、女性もすごく嬉しかっただろうなぁ。ね?澪……って、どうした?」
朱莉が振り返ると同時に私は椅子から立ち上がり、朱莉の声に気づいた先生やクラスメイトたちの視線が刺さる。
けれど今の私にそれを気にする余裕はなく、頭の中が総司さんでいっぱいだった。
「………ごめん」
「えっ?ちょ、澪!?」
私は逃げるように教室を飛び出して階段を上がっていき、屋上に出て座り込む。
太陽の日差しと熱風が私の体を包み込む。
総司さんから簪を貰った翌日、永倉さんに簪を送る意味を知ってるかと問われたことを思い出す。
総司さんは最後まで教えてくれず、震える手でスカートのポケットからスマホを取り出す。
「………っ、」
【簪 贈る意味】
・「あなたを守ります」という魔除けやお守りの願い
・特別な相手への愛情やプロポーズの気持ちを伝えること
それを見た瞬間、簪を見た時の皆の反応や近藤さんが言った"覚悟"という言葉が一つの線で繋がった。
『私は、貴女が愛おしくて仕方がないのです』
『私がいなくなる時が来ても、ずっとそばに居られるように』
「………っ、う、……っ」
張っていた糸が切れたかのように涙が溢れ出す。
総司さんは簪の意味を知った上で、私に贈ってくれたんだ。
それが分かった途端、私は無性に総司さんに会いたくなった。
「……澪?澪!」
追いかけてきてくれたのか、後ろから朱莉の声が響いて、朱莉の手が背中に触れる。
スマホを胸に当てて泣き続ける私の背中をさすりながら、ずっと声をかけてくれた。
私は今まで以上に、嗚咽を洩らして泣いた。
山南さんや平助君、総司さんを失った時よりも長く。
どうして……あの時、簪の意味に気づけなかったんだろう。
叶うのなら、もう一度あの日に時間を戻せるのなら戻りたい。戻って、あの笑顔が見たい。
けれど、この平和な世界で、私たちは会う約束をした。
それがいつになるかは分からないけれど、絶対会えるって信じてる。
泣きながら私は初めて、こんなにも愛されていたんだと知った。
私が初めて愛した人は、優しくて、意地悪で、心配性で、何考えているか分からない。
それなのに、だんだらを着ると一気に雰囲気が変わる、強くてかっこいい人。
