ゆっくりと目を開けると、視界に飛び込んできのは真っ白で綺麗な天井だった。
規則正しくなる電子音と鼻を掠める消毒の匂いで、ここが病院だと理解するまでに時間はそうかからなかった。
体を起こして点滴スタンドを持ちながら窓の外を見ると、たくさんの車や人が行き来している。
私、現代に戻ってきたんだ……。
みつさんにお礼も言えてないし、土方さんからは斎藤さんや永倉さんの訃報は届かなかった。
もしかしたら、総司さんが亡くなった時はまだ生きていたのかもしれない。
「最後に一度だけ、会いたかったな……」
空の明るさからして、今はおそらく昼前後だろう。
遠くから蝉の鳴き声も聞こえる。
窓の外をぼんやりと眺めていると、ドアの開く音がした。
「澪……?」
声をかけられて振り返ると、母親と朱莉が固まって立っていた。
朱莉が制服じゃないから、休日か学校終わりのどっちかだろう。
私には、二人の姿が何だか懐かしく感じた。
二人だけじゃない。窓から見える車や大きな看板、建物など何もかもが懐かしく感じる。
「えっと……おはよう?」
どう声をかければいいか分からない私は、困ったように笑って疑問形で返した。
すると朱莉は泣きながら走って抱きついてきて、母親も目に涙を浮かべながら近寄ってきて、私の腕をさすった。
先生を呼んでくるねと涙を拭いて病室を出た母親とは反対に、朱莉はずっと泣き続けていた。
その姿はまるで、さっきまで総司さんを抱きしめながら泣いていた私のようだった。
「ねぇ、朱莉。私、どれくらい眠ってたの?」
「二日だよ。二日間、一回も起きる気配がなかったの!」
朱莉は涙を拭きながら、「ほんっとに心配したんだからね!?」と続けた。
待って、二日?向こうで過ごした五年が、こっちでは二日しか経っていないなんて……。
早歩きでベッドに行き、近くのタンスの上に置かれているスマホの電源をつける。
するとそこには、七月二十一日(日)と書かれていた。
袖や裾を捲ると、浪士に斬られた傷の痕すら残っていなかった。
向こうでは綺麗に治らず、痕が残っていたというのに。
「澪、大丈夫?」
「うん、大丈夫」
朱莉は心配そうに顔を覗き込んできた。
幕末に行ってました、なんて言えない。
現に、私は二日間ここで眠っていたのだから、夢話に過ぎないと思われるだろう。
でも、浪士に斬られた時は確かに痛みを感じた。
向こうにいた時は何度も夢だと思って、こっちに戻ってきて本当に夢だったのではないかと考えてしまう。
新撰組は、私に感情を表に出させてくれた。
好きな人を想う気持ちや家族や友人を大切に思う気持ち、その気持ちを伝える大切さを教えてくれた。
私の、大切な人たち。
他人事にしか思っていなかった命の尊さも、向こうで学んだ。
彼ら以外に最高と呼べる人達は、今後現れないかもしれない。
