部屋に羽織を取りに行って、油小路まで走り続けた。
何度転びそうになったかなんて数えていない。
今藤堂さんに会いに行かないと必ず後悔するという思いだけが、私の行動力になっていた。
藤堂さんが屯所を出ると話してくれたあの日のように、月は京の町を照らしてくれている。
私が八木邸に住まわせて貰えるとなった時、真っ先に話しかけてくれたのは藤堂さんだった。
初めて話すにもかかわらず明るく笑顔で話しかけてくれて、私にはそれがとてつもなく嬉しかった。
当時は喜怒哀楽が顔に出にくかったというのもあって、きっと誤解されていただろう。
あの時藤堂さんが声をかけてくれなければ、私はずっと新撰組に警戒していた。
宗太君や弥吉君と遊んでいた時も、沖田さんと一緒に混じって来て五人で遊んだりもした。
『行ってきますは、"今から出かけます。そして、また帰ってきます"っていう意味で、必ず帰ってくるという思いが込められているらしい。そして、行ってきますに対して行ってらっしゃいって言うだろ?それにも意味があるんだよ。行ってらっしゃいは、"行って、必ず無事に戻ってきてください"という意味なんだって』
現代で何気なく使っていた言葉の意味と大切さを教えてくれた。
なのに私は、行ってらっしゃいと送り出すことができなかった。
ここに藤堂さんの帰る場所があるよって、あの時言ってあげたら良かった。
息を切らしながらやっとの思いで着いた油小路は、重くて鈍い金属音と血の匂いで満ちていた。
必死になって藤堂さんの姿を探すと、藤堂さんは御陵衛士の隊士の人と遺体を籠に乗せているところだった。
その背後から、新撰組の隊士が静かに刀を振り上げて忍び寄る。
「平助君……!!」
今までにないくらいの声量で、藤堂さんの名前を叫ぶ。
声に気づいた平助君は振り返ると、慌てて刀を避けるが避けきれず、鋭い刃先が藤堂さんの体に傷を入れる。
