藤堂さん達御陵衛士が離隊して屯所を去ってからというもの、私は仕事に没頭していた。
女中や使用人達が心配してくれていることも分かっているし、心配をかけていることに申し訳なさも感じている。
心に空いた穴を埋めるように働き続け、気づいた時には季節は冬へと向かっていた。
幕臣取り立てが決まった五日後、新撰組と私たちは屯所を不動堂村へと移した。
場所が変わってもやることは変わらず、いつものように仕事を終わらせ、お風呂から上がって部屋に向かっていると、後ろから土方さんに声をかけられた。
沖田さんは既に部屋で休まれていて、藤堂さんや斎藤さんが居なくなった今、屯所内には明るい空気ではなく重い空気が流れるようになっていた。
いつか私も解雇されるのではないか、そんな不安が時々脳裏を過ぎる。
特に近藤さんからは、今までのような温かな微笑みが消えていた。
壬生浪士時代の皆の笑顔が好きだったなと、心の中で呟く。
「失礼します」
「疲れているところ悪いね」
今までなら私が部屋を訪れる度に笑顔で迎えていてくれたというのに、近藤さんの表情は覚悟を決めた人のそのものの顔だった。
近藤さんは土方さんと視線を交え、ゆっくりと口を開く。
「こんなことを澪さんに頼むのは心が痛むが、明日、客を招いて宴を開く。その時の料理を任せたいんだ」
その声はひどく優しいものだった。
その言葉に、何となくだがこれから起きてしまうことの予想ができてしまって、胸は苦しさとつらさで締め付けられる。
局長の頼みとあっては断ることはできず、二つ返事で引き受けた。
話は以上と言われ、颯爽と退席しようとしたが、一人の男を思い出して障子に手をかけたところで足を止める。
「藤堂さんは、どうするおつもりですか……?」
沖田さんに来世のことを聞いた時のように、私の声は震えていた。
計画を知らない私がそんなことを口にしたから驚いているのか、局長室に重い沈黙が走る。
私も、なぜ聞いてしまったのかが自分で分からない。
計画は知らないが未来は知っている。だからといってどうすることも出来ないけれど、藤堂さんのことは聞かないと後悔すると思ってしまった。
「藤堂は助けるつもりだ」
「そう、ですか。……失礼します」
土方さんの独り言のように漏れた声は、重い沈黙を遮った。
「澪」
名前を呼ばれたことによって、障子を閉めようとする手が止まる。
ずっと"娘"か"お前"としか私のことを呼んでこなかった土方さんが初めて名前を呼んでくれたのに、嬉しさよりつらさが勝ってしまっていた。
「今回は止めない。後悔だけはするな」
その言葉に、目が熱を帯びていく。
顔を上げることなく頭を下げ、私は局長室を後にした。
