本当に時が流れるのが早く、慶応三年三月二十日の前日。
沖田さんの病状は悪化し、もう第一線では活躍できないだろうという話になっていた。
沖田さんの部屋を訪れた時、少し障子が開いていて中を覗くと、悔しさからだろうが壁を殴っていた。
普段見ることのない一面だけれど、何故か驚かなかった。
「澪、今いい?」
どうやって声をかければいいか分からず立ち往生していると、藤堂さんが寂しそうな笑みを浮かべながら声をかけてきた。
一瞬視線を沖田さんに移して、そっとしておいた方がいいと感じ、小さく頷いて藤堂さんの方へ歩いていく。
連れてこられたのは境内で、以前沖田さんと来世について話した場所だった。
月明かりが二人の影を照らし、まだ少し冷たい夜風が頬を撫でる。
「……俺さ、明日屯所を出るんだ」
「えっ……」
私の方を振り返った藤堂さんは、柱に背を預けて月を見上げる。
「伊藤先生が御陵衛士っていう隊を作ってさ、誘われたんだ。伊藤先生には昔から世話になってるから、迷いなく引き受けたよ」
月を見上げる藤堂さん言葉が、どうしても本音だとは思えない。
あんなに近藤さんを慕っていて、原田さんや永倉さん達と話す顔は心の底から楽しそうで、本当に新撰組が大好きだというのが伝わってきていた。
伊藤さんと藤堂さんが知り合いというのは、土方さんが教えてくれた。
だから、迷いなく引き受けたのは本当だとしても、そしたらなぜそんなに寂しい顔をするのかが分からない。
調べた時に、御陵衛士を結成して離隊と書いてあったことを今思い出す。
もうそんな所まで来てしまったんだ……。
「……藤堂さんが、そう決めたのであれば私は何も言うことはありません」
本当は行って欲しくない。そう言えば、藤堂さんは留まってくれるのだろうか。
皆、歳が重なっていく中で私だけは十七歳のままだけれど、一番歳の近い藤堂さんは兄のような人だ。
藤堂さんの明るさは、隊の人達をも明るくする太陽みたいだった。
その太陽が離れてしまうというのは、すごく寂しい。
「本当は?」
「……本当です」
顔をのぞき込まれたが直視することができず、そっぽを向く。
すると藤堂さんは諦めたように「そっかぁ」と言いながら、両手を頭の後ろで組む。
八木邸の頃から見ていたけど、両手を頭の後ろで組むのは藤堂さんの癖なのかもしれない。
