「あ、澪。おかえりー」
「外暑すぎ。着替えてくる」
「はーい」
三十分のランニングを終え、汗まみれで道場の更衣室に向かう。
幸い、道場の中は冷房が効いていて涼しい。
けれど、道着を着る上に防具をつけるから、結局冷房の中でも汗をかいている。
道着に着替え終えた私は道場まで行き、入り口で一礼してから自分の竹刀を取りに行く。
私と颯は部活用とは別に、道場に自分用の竹刀がある。
朱莉が使っているのは、予備として置いてある竹刀だ。
竹刀にもいろいろ種類があって、私は女子が扱うには少し重めの竹刀を使っている。
プロレスラーみたいな筋肉にはなりたくないけど、腕に多少の筋肉があれば日常でも役に立つと思ったのだ。
稽古では厳しいが、普段は過保護すぎる父親には最初反対されたが、母親になだめられていた。
颯のは私よりももう少し重い竹刀。前に握らせてもらったことがあるけど、これで素振りと言われたら二桁も触れないだろうというぐらい、私には重かった。
朱莉のは予備のやつだから、誰もが振れる重さの竹刀になっている。
「少し早いが、集まっている者から稽古始めるぞ」
素振りをしていると、父親……師範が入ってきた。
道場では威厳を保つために師範と呼べと、幼い頃から言われてきた。
師範は、私がこの道場で唯一勝てない相手だ。
師範曰く、私の実力は結果と共に認めてくれているらしい。
でも、私自身はそんな風には一ミリも思っていない。
師範から一本取って初めて、自分の中の土俵に立つ。
だからそれまでは、観客席で応援してるだけの客と違いない。
「まーた怖い顔してる」
「えっ?」
朱莉が「模擬戦前の水分補給」と言って、スポドリを持ってきてくれた。
ここではマネージャー業はしなくていいと前に言ったけど、朱莉は「職業病ならぬ部活病」と笑っていた。
私、そんなに顔に出ていたのだろうか。
