遺されたもの

祖母は齢80歳になった今も元気だ。あの祖父と離婚後、実家に逃げ帰った彼女はその後立派に今を生きている。昔はどんなに男が悪くても一方的に女が悪者にされた。辛かったはずだ。でも本人は家族に助けられて安心して子育てが出来たとはしゃいだ声で常に教えてくれる。
「今の時代は良いねぇ。女も男を選べる様になった。紬はどうするんだい」
でも祖母も矢っ張り元夫の突然の別れには堪えてるのかな。何時も通り楽しそうに過ごしていたのに今日はどういう理由か突然部屋の隅っこにひっそりとあった古箪笥を突然整理し出した。孫の中では一番出来の悪い私の前でおちおち何か大切な物は見せれないと何時も勝手に嘆いていたのに。祖母がそれを大事にしているのはこんな私でも流石に分かる。ちょっとだけ期待していた。何が仕舞って有るのだろう。やっぱり古くても良いものだろうか。見せて欲しい。「おや。紬はまだそこに居たのかい。」
ジロリと祖母に睨まれたのと同時に呼び鈴が鳴った。御免下さい!緊張した男性の声が憎たらしい速さで真っ直ぐに祖母に届いた。他所行きの顔になった。「ちょっとだけ待ってくれないかい。直ぐに戻るから、さ」無表情の孫娘の顔を一瞥して彼女は直ぐに部屋を出た。こういう時は仕方が無い。いつも通りここを別の場所だと想像するのだ。でも気づいたら古箪笥の中を覗いていた。期待通りの豪華絢爛のものは無かった。代わりに深緑の小本が仕舞ってあっただけだ。何だつまらない。昔の祖父母の写真でも見つけたかった。ふと表紙の文字が目に入った。気づいたら私はそれを光の速さで盗んでいた。音よりも遅く祖母が戻ってきてしまった。