○登場人物
霧裂時雨……霧裂家当主。邪気祓い。42歳。黒髪に濃い紫の瞳。誉、流、垂の父。
霧裂由良……霧裂家当主夫人。邪気祓い。40歳。淡い色の髪に黒い瞳。流、垂の母。
○脱衣場、夜
脱衣場にやって来た土筆。
土筆M「(不安そうに)誉さんは待っててって言っていたけれど」
誉が脱衣場入ってくる。
誉「(ポーカーフェイスで)お待たせ」
土筆「(緊張する土筆)その……っ」←誉が男だと思っている
誉、洋服のボタンを外す
誉「何か勘違いしてない?」
土筆「へぁっ!?」
誉「ほら」
誉が服の胸元をガバッと開ける。土筆、誉の胸元のサラシを見てハッとする。
土筆「えと……女の、人?」
誉、サラシを解きながら。
誉「そうだよ」
土筆「でも流さんはお兄さんだって」
誉「あの子は優しいから……。こんなぼくでもぼくとして扱ってくれる。それだけだ」
土筆、着替えながら。
土筆「流さん、優しいですもんね」
誉「ほんと……どっかのお人好しみたいだ」
土筆、呆気に取られたように。
土筆「へ……?」
○湯殿、夜
湯船に入る土筆と誉。
土筆M「まるで温泉みたいな大きな湯船。前世ではどれくらい前の時代からあったのかは分からないがこちらの世界ではありがたいものだ」
誉がボソッと口を開く。
誉「ぼくと流たちが異母だってのは知ってる?」
土筆「は、はい。聞きました」
誉「そ。ぼくの母親と霧裂家当主……父さんはその昔結婚しようとしていたんだ。だけど自由恋愛なんて滅多なことじゃなきゃ認められない」
土筆、気まずそうにする。
土筆M「普通は家同士の結婚となるものね」
誉「ぼくの母親は、家から認められず他所に嫁いだんだ。そして父さんは今の夫人と結婚することになった」
土筆M「珍しいことでもない。私のお母さまとお父さまも家同士の結婚。その後お父さまは愛人を後妻にしたけれど」
誉、瞼に影を落としながら。
誉「だけど……父さんとの間にぼくを妊娠していたことを嫁いだ後に気付いてね。ぼくは一応生むことは許されたけど肩身が狭かった」
土筆「(悲しそうに)……っ」
誉「その上ぼくは他の女の子みたいにはなれなかった」
誉は幼い頃を思い出す。長い髪を自ら切り落として俯く姿。
誉「髪を女の子みたいに伸ばすのも嫌だったし、女の子みたいな着物も嫌だった」
幼い頃、外で遊ぶ男の子たちを見つめる誉。
誉「女の子のおままごとに混ざるよりは外で男の子がやっているような遊びがしたかった」
誉の脳裏に浮かぶ、小さな女の子を真ん中に去る母と義父の後ろ姿。それを遠くから眺める誉。
誉「ただでさえ邪魔者だったのに、一層異質に映るぼくは母からも遠巻きにされた。母と義父との間に娘が生まれればさらに顕著になった」
土筆「(悲しそうに)誉さん……」
霧裂家の門を潜る誉。
誉「母が病で他界すれば、ぼくはもう用済みだと本当の父親のところに捨てられるようにして押し付けられた」
霧裂家当主に迎えられる12歳の誉。
誉「幸い霊力はあったから、邪気祓いとして育てられることになった」
邪気祓いとして短刀を持って訓練する誉(袴姿)。
誉「それでも女のような格好をするのは嫌だった。髪を伸ばしたくなかった。流たちが羨ましかった。だけど……当主夫人……つまりは義母だけど、お義母さんが許してくれたんだ」
土筆「……!」
誉「ぼくが無理をしていることに気が付いたんだろう。だからしたい髪型と格好をすればいいと言われた」
髪を短く切り、男物の着物を着る誉。
誉「そんなぼくを流は『兄さん』と呼んでくれた。垂もね。だからぼくはあの子たちが大切なんだ」
土筆「分かります。誉さんが流さんたちを大切に思ってること」
誉「君には最初随分な態度を取っただろ」
土筆「それでも、流さんたちを大切に思ってることは分かりましたから!その……服も流さんからもらったものを大切に着てるんですよね」
誉「あいつ、そんなことまで?(苦笑しながら)まぁ、父さんが買ってきた服が合わないからってぼくに渡してくるけど」
土筆「(つられて微笑む)ふふふっ」
誉「さて、長くなりすぎたね。そろそろ上がろうか」
土筆「はい!誉さん!」
誉「その……っ、君さえ良かったら……」
土筆「……はい?」
誉「お義兄さん……でもいいから」
土筆、嬉しそうに。
土筆「……!はい!誉お義兄さん!」
○居間、夜
夕食を囲む流、土筆、垂、誉(男性用の着物)
流「明日、父さんと母さんが帰ってくる」
土筆「(緊張しながら)……!」
流、土筆をじっと見つめる。
流「その……土筆のこと、父さんと母さんにも絶対認めてもらうから」
土筆、緊張しながら頷く。
土筆「う……うん」
土筆M「本当に認めてもらえるかな。もし、ダメだったら……」
誉「ぼくも協力する」
土筆、流、驚いて誉を見る。
流「誉兄、いいのか?」
誉「力は本物だ。彼女は霧裂家になくてはならない。なら流と婚約を結ぶ理由は大いにある」
流「ああ、ありがとう。誉兄」
誉、照れたように顔をそらす。
誉「……別に」
土筆、流、顔を合わせて微笑む。
垂、嬉しそうに土筆に抱き付く。
垂「兄さまと、姉さま」
土筆「垂くん!」
流「ふふっ。垂も随分と懐いたなぁ。うーん……でも」
土筆「流?」
流「お兄ちゃんちょっと寂しいぞ」
誉「(呆れながら)少しは弟離れしろ」
流「ええ……っ」
誉「いいか。土筆と本気で婚約する気なら、父さんとお義母さんを納得させるために垂との添い寝は卒業だ」
流「そんなっ!酷すぎる!大体垂が寂しがる!」
誉「は?ぼくの部屋で寝かせるから問題ない。お前が出張でいない時もそうだろうが」
垂、誉に頷く。
垂「兄さま」
流、崩れ落ちる。
流「いやあぁぁぁぁ――――っ!」
誉「悪いな、土筆。こんなバカでも見捨てないでやってくれ」
土筆「ええと……その」
土筆M「何だか流さんのかわいらしい一面を見てしまった」
居間は温かい談笑に包まれる。
部屋に戻る手前、迎えに来た陽に流が話し掛ける。
流「弟離れなんてまだまだ早いと思わないか?」
陽、流に手刀を食らわす。
○翌朝、玄関
土筆は流、誉、垂、使用人たちと当主夫妻(時雨と由良)を出迎える。2人の後ろには供の虚たち。
使用人たち『お帰りなさいませ、旦那さま。奥さま』
時雨、流のようにニカッと笑う。
時雨「よう、ただいまぁっ!それにしても流、俺たちの出張中に女の子を連れ込むなんてやるじゃぁねぇか!」
土筆、時雨の様子に驚く。
土筆「……っ!?」
流、照れながら。
流「妙な言い方すんな、父さん!」
由良「そうよ、時雨さん。玄関先であなたはもう。話は中に入ってからにするわよ」
由良に笑いかける時雨。
時雨「分かったって!由良」
流、気まずそうに。
流「いきなりびっくりしたろ?土筆。うちの父さんと母さんだ」
土筆「(あたふたしながら)あう……っ、う、うん」
土筆M「よくある時代ドラマみたいにいきなりちゃぶ台返しとかにならないよね……?居間は長テーブルだけど……」
○居間
一同が集まる。
時雨、顎に手を当てながら。
時雨「ふーむ、巫隠村でそんなことがねぇ」
流「そうだ。父さん。それから土筆の能力は本物だ。俺と誉兄も証明済だ」
時雨「かつて……お前たちの曾祖父の時代、同じような力を持つ巫女がいたそうだ」
流「ああ。館花蒔だ」
時雨、昔を思い出すように。
時雨「そん時は連れ帰ることが出来なかったと、山茶礼の大叔父は嘆いてた」
流「だが今度は違う」
時雨「そうだな」
流「それに俺は土筆とならと思うんだ」
時雨「ほう……?」
流「俺は土筆を生涯の伴侶に迎えたい」
時雨「……話を聞いた限りじゃぁ、とても相手の家は納得してないようだが、するはずもない。となりゃぁ、駆け落ちに近い形の婚約になるぞ」
流「承知の上だ」
時雨「相手さんは返せと言ってくる……いやもうその気だろうに」
流「それでも土筆を村に帰すわけにはいかない。生け贄にするわけにはいかないんだ」
土筆M「流……!」
時雨「ま、あの村の儀式……虚巫女から生け贄の巫女に代わってもなお、都としてはそんなものはなくしたいと考えている」
由良「そうね。だからこそうちも定期的な調査を行っているわ」
時雨「ああ、由良の言う通り。それにその子の力は俺たち邪気祓いになくてはならないもの。御上にも無理矢理押し通せる」
流「父さん!」
時雨「その代わり、しっかり守れよ。今度こそな。山茶礼の大叔父の悲願だ」
流、土筆の手を握る。
流「もちろんだ」
土筆M「こうして私たちは霧裂家の両親に許しをもらうことが出来たのだった」


