○霧裂家土筆の部屋、朝
布団に寝たままパチリと目を覚ます土筆。
土筆「そうだ……もう村じゃないんだ」
脳裏に浮かぶ流との逃避行。
土筆「ここは都、霧裂家」
むくりと起き上がり枕元を見る。
土筆「着替えのお着物」
洋風の襟の付けられた着物と袴をそっと手に取る。
土筆「それにしてもその……」
土筆M「私が袴ばかり穿いていたからか用意してくれたんだろう」
土筆「陽太お兄ちゃんを思い出すから……って、後ろばっかり見てちゃダメ」
土筆、袴に脚を通す。
○土筆の部屋→居間の廊下、朝
廊下から居間に向かう土筆。
反対側から流が歩いてくる。
流「よっ。起きたのか」
土筆「う……うん」
流、土筆の着物を見る。
流「よく似合ってる。最近は外国のレースやらブラウスやらを着物と組み合わせるのが流行ってるんだってさ」
土筆M「あ……だからこの襟のフリル。茉莉花が仕入れさせているのにはなかったから……あれ、本当に流行りものだったのかしら。でもそれはともかく」
土筆「えと……その、ありがとう」
流「ああ、杏か誰かのお下がりだろ?気にするな」
土筆「そっか……そうだよね。後でお礼を言っておかなくちゃ」
流、優しく微笑む。
流「ふふっ」
土筆「流さん?」
流「そう言うところ、好きだな」
土筆「(頬を赤らめながら)……えっ」
土筆M「好き……って」
流「どうした?顔が赤いぞ。疲れでも出たか?」
土筆、首をふるふると横に振る。
土筆「ううん、何でもないの!」
流「そうか?それならいいが」
流が居間の襖を開け、手招きする。
土筆、遅れないようについていく。
土筆M「流さんがそう言うこと、何気なく言うから」
○居間、朝
既に誉(男装、洋服)と垂が待っている。
土筆、誉の格好に驚く。
土筆「ようふ……服?」
誉、不機嫌そうに土筆を見る。
誉「悪い?」
土筆「(あたふたしながら)いえ、そう言うわけじゃ……その、驚いただけで」
流が取りなすように笑う。
流「誉兄は昼間はそっちの方が好きなんだよ。動きやすいとかで」
誉「ぼくは流の和装の方が不思議だ。それであちこち走り回るんだから」
流、米を口に運びながら。
流「袴も結構走り回れるぞ」
誉「それならいいけど。早く帰ってきたんだから、こっちの仕事も手伝ってよ」
流「分かってらぁ。(土筆を見る)そんなわけで土筆」
土筆「は、はい!」
流「日中は邪気祓いの仕事だ。土筆は屋敷で休んでいてくれ」
土筆「何かお仕事を……」
流「杏たち使用人がいるからな。虚たちもいるから足りてる」
土筆「そう言えば虚たちはここで働いてるの?」
流「そうだなぁ。戦えるものは俺たち邪気祓いの補佐。戦えないものは霧裂や邪気祓いの家が引き取って使用人の仕事を分け与えてる」
誉「虚は記憶も感情も失う。霊力が強ければ感情が残ることもあるが……。そんな状態だ。おいそれと外に放り出せば利用されかない」
土筆「その……利用って……」
誉「記憶も感情もない人形として、何をされるか分からないってことだよ。お前は自分の一族のことすら知らないのか」
土筆、首を傾げる。
誉「暇なら書庫にでも行くといい。お前が知らない真実があるかもな」
土筆、俯く。
土筆「私の知らない……真実?」
土筆M「それって一体何なのだろうか」
○玄関、朝
流、誉、陽、武器を携えた虚たち。見送る土筆と垂。
流「そんじゃぁ行ってくる」
土筆「行ってらっしゃい」
垂、流の着物を掴む。
垂「兄さま」
垂、流に抱き付く。流、垂の髪を撫でる。
流「ああ、兄さま行ってくるな」
垂、こくんと頷く。
垂「……」
そっと流から離れる垂。
流たち、出発。玄関に残る土筆と垂。垂は土筆の手首を取る。
土筆「垂くん?」
垂、土筆の手首を引っ張る。
垂「……」
土筆、垂についていく。
土筆「どこへ行くの?」
○書庫、朝→昼
垂に案内された書庫にはたくさんの本が納められている。
土筆「好きに読んでもいいのかな?」
垂、こくんと頷く。
垂「……」
土筆、それを見て背表紙に目を走らす。
土筆M「こうしてみると、書物の言語は日本語と同じなのよね」
土筆、文字をなぞる。
土筆M「ただ明治や大正時代の書き方なのか、少し読みにくいけど」
村で陽太と月人に文字を教えてもらった記憶。
土筆M「村でもお兄ちゃんたちに習ったからか読めなくはない」
垂、土筆の袂を引っ張る。
土筆「垂くん?」
垂、ある本を指差す。
垂「……」
土筆「それは……巫隠村の記録」
土筆M「いくつかに分かれている。調査ごとに纏められているのだろうか」
土筆、一冊を手に取る。
土筆「読んでみようか」
土筆、垂を見る。垂の手には一冊の本。
垂「兄さま……兄さまの」
土筆「ひょっとして流の書いた報告書?」
垂、こくんと頷く。
垂「兄さま……大好き」
土筆M「虚は感情を失う。でも垂くんは霊力が強かったはずだからその感情が残っている……?」
土筆「そっか、私もお兄ちゃんが大好きなんだよ」
土筆、垂の頭を撫でる。
土筆M「陽太お兄ちゃんにも残ってくれるだろうか」
垂、嬉しそうに頷く。
垂「……」
○書庫内、畳スペース、朝→昼
書庫内の畳に座り本を読む土筆と垂。
土筆、本の表紙を見つめる。
土筆M「巫隠村調査記録『虚巫女』、調査記録:霧裂山茶礼」
ページをめくる。
土筆M「本の感じからしても相当古いものだ。何代前の邪気祓いなのだろう?それに『虚巫女』だなんて初めて聞く言葉だ」
本「巫隠村には邪気の湧き出る泉がある。その泉を封じるために巫女が邪気を纏い、御神水を浴びることで邪気を祓い封じる」
土筆「泉……?大穴ではないの?それに御神水なんてあっただろうか」
土筆M「あったとしても知っているのは祭主のお父さまか跡取りの月人お兄ちゃんだろうか」
さらにページをめくる。
本「邪気を祓った巫女は白髪、光を厭う金眼、色の抜けた肌となり、記憶と感情を失った虚巫女となる」
土筆「虚……!?」
本「儀式には出来るだけ霊力の弱い巫女が選ばれる。一切の感情を絶ち、封印を守るため生涯を宮の中で過ごすと言う」
土筆「今とはまるで違う」
土筆M「今では霊力の強い巫女が大穴の封印に選ばれる。5年前はお父さまが茉莉花を生け贄にしたがらず、霊力のない私で強行したけれど」
土筆の脳裏に浮かぶ陽太の顔。
土筆M「結果は霊力の強い陽太お兄ちゃんが犠牲になってしまった」
土筆「それに……昔は虚となって宮の中で孤独の生涯を過ごした」
土筆M「ある意味人柱だが、生け贄となって死ぬ今とは違う。いや……記憶も感情も失うのならば死んだことと何一つ変わらないのだろうか」
隣から聞こえてくる寝息。
垂「すう……すぅ……」
土筆「でも、ここでは違うから」
土筆M「垂くんは大好きな兄さまと一緒にいられる。ここの虚たちも抑圧されているようには見えなかった」
土筆「私も陽太お兄ちゃんを見付けてあげるんだ」
○霧裂家、夕刻
居間で書物を読んでいた土筆と垂を杏が呼びに来る。
杏「誉さまと流さまがご帰邸されます」
土筆、本を閉じて。
土筆「今行きます!」
土筆に垂もパタパタとついていく。
垂「……!」
○玄関、夕刻
帰邸した流と誉、陽、虚たち。
流は陽に抱えられていた。
土筆「流さん!?」
土筆、急いで駆け寄る。
土筆「大丈夫?」
流「あー……少しぶっぱなし過ぎた」
誉、玄関を上がって腰を付きながら。
誉「毎回運ぶ虚の身にもなれよ」
陽以外の虚たちは仕事道具の後片付けをしている。
流、ニヤリと笑む。
流「陽は割りと面倒見がいい性格と見ている」
土筆「それはその……分からなくもないけど」
土筆M「遊び疲れてしまった私を抱っこしてくれた陽太お兄ちゃんを思い出す」
土筆、流に手を伸ばす。
土筆「あの……反動はどう?」
流「うん、やっぱり土筆がいてくれるとあっという間に回復するわ。ありがとな」
土筆、嬉しそうに。
土筆「うん……!」
流「……ってことで、陽。そろそろ降りるわ……って」
陽は流のブーツを脱がせると、そのまま自分も靴を脱ぎ室内へと上がっていく。
流「いや、おい。もういいって……!」
流を抱っこした陽の後ろ姿が遠ざかる。垂が一緒にとたとたと駆けていく。
誉、呆れながら。
誉「おいおい、アイツ過保護か」
土筆、誉の側に膝を落とす。
土筆「その……でも誉さんも!」
土筆、誉に触れる。誉、驚きながら口元を手で覆う。
誉「邪気祓いの反動を無効化するって……マジか」
土筆、笑顔で。
土筆「誉さんにも効いて良かったです!」
誉「(ツンツンしながら)お前……どんだけお人好しなんだ」
土筆「(戸惑いながら)えと……その、でも誉さんも無茶してほしくなかったから……」
誉「お前……あの陽とちょっと似てる」
土筆「(驚きながら)えっ」
誉「お節介と言うか、過保護と言うか。その素質がある」
土筆「素質……ですか?」
誉、溜め息をついて。
誉「お前、風呂はもう済ませたのか?」
土筆「いえ、まだこれからで……」
誉「なら先に脱衣場で待っていろ」
土筆M「脱衣場でと言っても誉さんは男の人だから脱衣場が別なのでは……?」
土筆N「釈然としないながらも準備に向かった」


