○登場人物
霧裂誉……流の異母兄。19歳。格好は男だが身体は女性。邪気祓い。濃灰色髪(ショートヘアー)に淡い紫の瞳。
霧裂杏……流の従姉。霊力が弱いため邪気祓いではなく裏方を選ぶ。土筆の世話係を担う。22歳。
霧裂垂……流の実弟。虚。白い髪に顔には面布、色の抜けた肌。12歳。
○都の街並み、霧裂家への道中、夜
馬に股がる流、その前に土筆が乗る。傍らの馬には陽。
土筆、都に行き交う人々を見る。
土筆「もう夜なのに人がこんなにたくさん」
流「都は夜も賑やかだからな」
馬を進める一行。土筆、周りをキョロキョロと見る。
土筆M「街並みは西洋風なものもある。何と言うか和洋折衷のような」
土筆、洋服や憲兵を見る。
土筆「洋服を着てる人がたくさん……!」
流「よう……服?着物ではない『服』のことか。よく知ってるな」
土筆M「そうか……この世界は日本やヨーロッパはないから『洋服』と言う言い方はしないのか」
流「近年外国から入ってきた文化だな。土筆も興味があるのか?」
土筆「それは……その、そう言う訳じゃなくて」
土筆、前世の洋服を思い浮かべる。
土筆M「前世では着なれていた。しかし着物もこちらではずっと着てきたから普通だ」
土筆「流さんは……どう?」
土筆M「コートやブーツは洋装だけれど」
流「俺?ゴテゴテなのは父さんが買ってきたことはあったが、着なれないから兄貴にやっちまった」
土筆「お兄さんもいるの?」
流「異母兄だ」
土筆、茉莉花を思い出しながら。
土筆「(複雑そうに)異母……」
流「心配するなよ。仲は良好だ」
土筆M「そっか……それは良かった」
馬で移動しつつ、周りを見ながら。
土筆M「前世の感覚で言うのなら和洋折衷の明治か大正時代風だろうか」
土筆、前世歴史の教科書を思い浮かべる。
土筆M「とは言えほとんどの学生が明治と大正の違いなんて把握してないはずだ」
土筆、周囲に目を凝らす。
土筆M「時代風異世界に転生するのならもっとちゃんと勉強しておくべきだった」
土筆、流の腰元をちらりと見て。
土筆M「拳銃は……少なくとも明治時代にはあったはずだけどそれ以上が分からない」
○霧裂家、門の前、夜
大きな門が開き、一行を出迎える誉(男物の和装)とその後ろにたくさんの虚。
誉、提灯を持ち流を見上げながら。
誉「帰りはもう少し遅くなるんじゃなかったか」
流「ちょっと色々とあってな」
流、馬を下りると土筆を下ろす。陽も馬を下りる。
誉「(土筆を見ながら)誰?」
流「館花土筆」
誉「(驚きながら)館花って……村から連れてきたのか!?」
流「ああ、そうだ」
誉「何故……勝手なことを」
流「それが一番の最良だったからだ。それに土筆も望んでのことだ」
土筆、誉に向き合う。
流「土筆、俺の兄貴の誉」
土筆「お、お兄さん!よ、よろしくお願いします!」
誉、顔を背ける。
誉「どういうつもりか知らないけど……半端な覚悟でここに来たんならとっとと帰った方がいい」
土筆、震えながら。
土筆「帰る場所なんて……」
流「よせ、誉兄」
誉、後ろを向きちらりと振り返る。
誉「言っとくけどぼくは認めてないから」
誉、虚たちの間を通り戻っていく。
流「悪い、土筆。悪いやつじゃないんだけど……」
土筆「(俯きながら)う……うん」
土筆M「勢いで村を出てきてしまったけど、本当に良かったんだろうか」
○霧裂家、廊下、夜
流、土筆を中に通す。後ろから虚たちが入ってくる。
流、首を傾げる。
流「それにしても虚たち、何で今晩に限って集まって出迎えてきたんだ?」
土筆「いつものことじゃないの?」
流「いや、さすがに俺が帰ってくる度にこうじゃない。だからこそ誉兄も何事かと門先で待っていたんだろうが」
捌けていく虚たち、流の腕にそっと抱き付く垂。
土筆M「この子は……?」
垂「兄さま」
土筆M「(驚きながら)え……っ!?」
流「ああ、紹介がまだだったな。弟の垂だ」
土筆「弟さん……虚?」
流、寂しそうに。
流「そうだな。この子は霊力が強すぎたからこそ狙われてしまった。気が付いた時には異界に囚われ、抵抗する術も持たずに邪気に呑まれた」
土筆「(ショックを受けながら)そんな……っ」
流、沈痛そうに垂を抱き締める。
流「だけど戻ってきてくれた。それだけでいい」
土筆、目を閉じて胸の前で手を握る。
土筆M「戻ってきてくれただけでいい。もし陽太お兄ちゃんが戻ってきてくれたのなら……私も」
○居間、夜
居間の長テーブルに夕食が並べられている。その席には誉、流、垂、土筆。陽は垂の後ろに。
流「土筆、遠慮しないで食べてくれ」
土筆「う、うん」
土筆M「儀式の後はいつもひとりで食べていたからどこか不思議な感じ。でも……」
土筆、陽を振り返る。
土筆「陽さんは?」
流「後で賄いを食べるよ」
土筆「そ……それなら」
流「んじゃ、いただきます」
土筆「いただきます!」
誉、目線を合わさずに。
誉「ふん……」
土筆が不安そうにしていれば、流が話し掛ける。
流「父さんと母さんは出張の邪気祓いで今いないんだ。帰ってきたら紹介する」
土筆「(緊張しながら)う……うん!」
土筆、顔を赤らめながら茶碗に視線を落とす。
土筆M「紹介ってつまり……そう言うことだよね」
誉、ギッと流を見ながら。
誉「流。その子を晩餐の席に着けるってことはどう言うことか分かっているよね」
流「もちろんそのつもりだ」
誉「いきなり連れてきた村の娘を霧裂家が認めるとでも?」
流「納得させてみせるさ」
誉「だからって相手の家は?納得してるわけ?」
流「それは……っ」
土筆M「お父さまからは逃げてきてしまったから」
誉「また二の舞になる」
土筆M「二の舞ってどう言うこと?」
流「そんなことにはさせない。それに土筆は……多分、館花蒔と同じ力がある」
誉、ハッとして土筆を見る。
誉「……」
土筆M「蒔さんも私と同じ力を持っていた……?そんな話、初耳だ」
○居間、夜
夕食後。流、襖の向こうに呼び掛ける。
流「杏、いるか?」
襖が開き、お仕着せの杏が姿を現す。
杏「はい、ここに」
流「土筆に部屋を。着替えなんかも工面してやってくれ」
杏「かしこまりました。では土筆さま、こちらへ」
土筆「は……はい!」
土筆、立ち上がろうとすると垂が手首を掴む。
垂「……」
土筆「垂くん……?」
垂、手を放す。
流、不思議そうに。
流「垂、どうしたんだ?」
杏「あらまぁ。ひょっとして懐いていらっしゃるのかしら」
流、くすりと微笑む。
流「珍しいこともあるものだな」
○廊下、土筆の部屋の前、夜
杏が土筆を部屋まで案内する。
杏「今晩よりこちらでお休み下さいませ。お布団は揃えております。着替えはその傍らに。湯殿の準備ができましたらお呼びいたしますね」
土筆「は、はい!」
杏「後それから厠は廊下を出て突き当たりです」
土筆「ありがとうございます」
杏、上品に礼をする。
杏「それではごゆるりと」
○部屋の中、夜
土筆、布団の上に腰掛ける。
土筆M「ひとまずは村を抜け出して都まで来られた。無事にこちらでお世話になることができたけど」
誉の様子が脳裏に浮かぶ。
土筆M「いきなりやって来た私が歓迎されないのは当たり前か。この世界が限りなく明治か大正時代に近いとすれば恋愛結婚が許されるなんて稀なことだろう」
○厠→廊下へ、夜
土筆M「湯殿の前に厠は済ませて……と。厠事情が村とは段違いなのはありがたいかも」
厠から戻る途中虚たちに囲まれる。
土筆「あの……ええと、そのっ」
虚「……稀レ子」
虚「あの日見タ……」
虚「現世へノ陽光」
土筆M「何のこと……?どうすればいいのだろう?」
土筆、後ずさる。背中が何か(陽)にぶつかる。
土筆、後ろを見上げる。
土筆「陽さん!」
陽、虚たちに遮るように手を差し出す。
土筆「……!」
虚たちが去っていく。
土筆「その、ありがとう」
陽「……」
土筆「何だか、陽太お兄ちゃんみたい」
土筆、首を横に振る。
土筆M「ううん、何を言ってるんだろう」
その時、杏がやって来る。
杏「こちらにおられましたか。湯殿の準備が出来ましたよ」
土筆「杏さん!」
陽にトンッと背中を押される土筆。土筆、陽太との別れがフラッシュバックする。
土筆M「ううん……違う。臆病になってはダメだ。陽太お兄ちゃん」
陽太の笑顔が脳裏に浮かぶ。
土筆M「絶対に見付けるんだ」
杏と共に湯殿に向かう土筆の後ろ姿。陽が意味深に見つめる。
陽「……」


