能無しと呼ばれた少女は草原に還る



○墓地へ向かう道、縁石、昼
縁石に腰を下ろす土筆と流、傍らに立つ陽。
流、優しい笑みで。
流「落ち着いたか?」
土筆、ゆっくりと頷く。
土筆「……うん」
土筆、流を見る。
土筆「いきなり、ごめんなさい」
流「いいんだ。俺にできることなら頼ってくれて構わない」
土筆「流さん……」
流「何があったんだ?」
土筆、決意したように。
土筆「その……私」
土筆、ぐっと拳を握る。
土筆M「今度こそ決めた」
土筆「村を……出ようと思うの」
流「(驚いて)……!」
土筆、決意したように。
土筆「ここにはもう、私のお兄ちゃんはいないから」
流「……そうか」
土筆「うん。だから私、村を出て陽太お兄ちゃんを探したい」
流「土筆を異界に入らせることはできない」
土筆「それでも出来ることがしたいの。だから私」
土筆、決意を込めて。
土筆「あなたと一緒に、都に行きたい」
土筆M「あなたの側にいたい」
流「(考えるように)……」
土筆「だめ……かな」
流「いや、俺も誘おうと思っていた」
土筆「(驚いて)え……っ」
流「だが何よりも大事なのは土筆の気持ちだ」
土筆「私の……気持ち」
流「そうだ。土筆がこの村を好いているのなら、無理に引き剥がすことなんて出来ない」
土筆、俯き加減に。
土筆「この村が……好きかどうかは分からない。私にとってはお兄ちゃんたちさえいれば良かったから。でも今は……」
流「もういない……か」
土筆「うん……だからその……」
流「土筆がその気なら、一緒に都に行こう」
嬉しそうに頬を染めながら。
土筆「うん……っ」
流「村を出ることについては……多分村長が力になってくれるはずだ」
土筆、驚いて。
土筆「え……っ」
流「姪には幸せになって欲しいんだろう」
土筆、ホッとする。胸に手を当て微笑む。
土筆「……伯父さま、ありがとう」
流、微笑む。
流「さて、そうと決まれば村を出る前に寄りたいところがあるんだ」
流が墓地の方向を見る。
土筆「墓地へ行きたいの?お墓参り?」
流「そうだ。父さんからも頼まれていてな。いや……もっともっと、前から」
流の言葉に不思議がる土筆。
土筆M「一体どう言うことだろう?」

○巫隠村墓地、昼間
流は土筆と陽を連れ、墓地の中の端の石碑の前に立つ。
土筆「この石碑、生け贄になった巫女を祀るものだ」
流「そうだ」
土筆「流さんはどうしてここへ?」
流「館花蒔を知っているか」
土筆「もちろん。初代生け贄の巫女……私のご先祖さまだから」
流「そうだな。そしてうちの一族とも関係が深くてな」
土筆「どう言うこと?」
流「館花蒔は何代か前、村を訪れた霧裂の邪気祓いと結ばれるはずだった」
土筆、驚く。
土筆「……えっ」
流「だけどある時行方不明になり、都に戻った邪気祓いが聞いたのは蒔が自ら大穴を封じる人柱となったと言うものだった」
土筆「(ショックを受けながら)そんな……っ」
流「蒔はそれほどまで村のことを願っていたのか」
土筆、石碑を見つめながら。
土筆「分からない。霧裂家との関係も初めて知ったから」
土筆M「蒔さんは愛していた人がいたのに村のために生け贄になった。本当に……村のためだけに?」
流、土筆の手を取る。
流「だが今回は連れ帰る」
流、決意のこもった顔で土筆を見る。
流「連れ帰れる」
土筆、石碑に向かい合う。
土筆「蒔さん。私は館花土筆です。あなたの子孫で……その、巫女の家系だったけれど。私は流さんと行く。行ってきます」
土筆M「蒔さんが叶えられなかった分まで。陽太お兄ちゃんが生かしてくれたから」
流も石碑に向かい合い、花を手向ける。
流「土筆は俺が霧裂に連れ帰る。今度こそだ。だから安心してくれ、蒔さん」
土筆、その言葉を聞き目を閉じる。
土筆「……っ」
土筆M「流さんと一緒に村を出るんだ」

○墓地から帰る道、昼下がり
土筆、流、陽が歩く。そこに茉莉花がやって来る。
茉莉花「(怪訝そうに)あんたたちが来たのって墓地の方向?こんな昼間っから気味が悪い」
土筆M「ひどい……そんな言い方!あそこには生け贄になった巫女たちの碑もあるのに」
茉莉花、土筆に構わず流に目を向ける。
茉莉花「それよりあなた、都から来たのでしょう?」
流「(不機嫌そうに)それが何か?」
茉莉花「だったらねぇ、私を都に連れていってよ!私、都に行ってみたかったの!」
土筆「(驚愕しながら)……!」
土筆M「流さんと都に行くのは私なのに……!」
茉莉花、流に手を伸ばす。
茉莉花「そんな地味な子よりも私の方が見た目も霊力も優秀よ」
土筆M「茉莉花はいつもそうやって私から奪うんだ」
流、はぁと溜め息を吐く。
流「それが?」
茉莉花「(訳が分からなさそうに)え……?」
流「俺は土筆を選んだ。ほかの誰でもない。お前などあり得ない」
土筆、嬉しそうに。
土筆M「流さんは私を選んでくれる」
茉莉花、土筆に手を伸ばす。
茉莉花「何よ、何でそんな子!」
陽、土筆を腕で制す。
土筆「陽さん……!」
茉莉花、後ずさる。
茉莉花「何なのよその面布!気持ち悪い!」
茉莉花は悔しそうに逃げていく。

○村長宅近くの道、昼下がり
村長宅に向かう土筆、流、陽の元に馬を二頭連れた葵が駆けてくる。
葵「はぁ……はぁ……霧裂さん!土筆!」
流「おい、俺たちの馬……?一体どうして」
葵「客間にあった荷物は積んであります。今すぐ村を出てください!」
流「どう言うことだ?」
葵「おじさんが……土筆の親父さんが、土筆が霧裂さんと村を出るんじゃないかと勘繰ってる!多分茉莉花がいらぬことを吹き込んだんだ!」
土筆、ハッとしながら。
土筆「でもどうして……?例えそうだとしても、私はお父さまからは役立たずの能無しだって……」
葵「もしもの時の代えが欲しいんだ。親父はそう言ってた」
土筆「もしもの時って……」
葵「陽太兄による生け贄の儀は、巫女ではなかったから。土筆の親父さんは慎重になってる」
土筆M「(悔しそうに)私はどこまでもお父さまにとっては生け贄のために生かされるのか」
葵「今、親父が必死で抑えてる。でも土筆の親父さんは村のもんに声をかけて逃がさないようにするつもりだ!」
流「(憤りながら)どこまで外道なんだ!」
葵「だから今すぐ逃げてくれ。墓地の方向に……石碑の裏から抜ければ抜け道がある。そこから村を出てくれ」
流「分かった。土筆、お前は俺の馬に」
土筆「うん……!」
流、馬に股がり土筆を前に座らせる。陽、もう1頭の馬に股がる。
葵「なぁ、土筆。最後に聞かせてくれ」
土筆「なぁに?」
葵「俺と一緒に都で暮らそうといったら……ついてきてくれるか?」
土筆、申し訳なさそうに葵を見る。
土筆「……ごめんなさい」
葵、がっくりと肩を起こす。
葵「そう……だよな。悪い。今のは忘れてくれ」
葵、再び顔を上げる。
葵「土筆、幸せにな」
土筆「……葵」
葵「陽太兄のこと、悪かった。忘れろなんて、大人げなかった。こんな俺を許してくれ」
土筆「うん、許すよ。だから……ありがとう」
土筆、葵から視線を外す。
流「飛ばすぞ!」
陽、頷く。二頭の馬が駆ける。
その姿を葵がひとり見送る。葵、目頭を抑える。
葵「じゃぁな……土筆」

○墓地→抜け道へ、昼下がり
馬が高速で駆ける。
流「石碑の裏の抜け道は……っ」
土筆、指差す。
土筆「あそこ!」
流、陽、馬を駆ける。馬が脇道に抜ける。
後ろから怒号が飛ぶ。
父親「いたぞ!土筆を逃がすな!」
土筆、振り向く。父親と共に集まる村人。
村人「捕まえろ!」
村人「追え!」
流、叫ぶ。
流「追い付かせるかよ!陽、飛ばすぞ!」
陽、頷く。
陽「……」
父親や村人たちの声が遠退く。
流「よし、陽が暮れる前に都まで駆けるぞ!」
土筆「うん……!」
流れるように過ぎ去る景色の中に、土筆は人影を見る。
土筆「月人お兄ちゃん……?」
土筆M「いや……そんなわけないよね。月人お兄ちゃんなわけ、ない」
草原を駆け抜け、馬は都に向けて遠ざかる。