能無しと呼ばれた少女は草原に還る



○巫隠村神社、昼間、晴れ
鳥居の前に立つ土筆、流、陽
鳥居の向こうには見渡す限りの草原
流「ここが儀式の場所か」
土筆「うん。儀式の時は霧が立ち込めて、進んでいくと大穴があるんだけど」
流「今はありそうには見えないな。この先に進んでも構わないか?」
土筆「儀式の時以外は誰でも入れるの。みんな、気味悪がって入らないけど」
土筆たち、草原に足を踏み入れる。
流「気味悪がるとはどう言うことだ?」
草原に風がそよぐ。土筆は髪を耳にかけながら。
土筆「儀式の時は邪気が湧き出る大穴があくから。邪気を恐れているの」
流「そうか。まぁこの村の周辺にも多少の邪気はあった。適当に祓ってきたが」
土筆「(気が付いたように)それってもしかして最初に会った時の……」
流「ああ、祓った後だ。祓った後は反動が来るもんでな。時に邪気が抵抗するんだ」
土筆「(焦りながら)大丈夫だったの!?」
流「うーん……どうしてかすぐに良くなった。土筆が触れてくれたからか?」
土筆、首を横に振る。
土筆「私、能無しだし」
流「だが……」
その瞬間、流が振り返り、陽が刀を抜く。陽の刀が黒いものを弾く。
土筆「きゃ……っ!?」
流「はぐれた漂う邪気か。心配ない、任せておけ!」
流、拳銃を構える。
土筆M「け……っ、拳銃!?この世界に銃刀法は……そんなものはない、か」
流「食らいな、邪気祓い!」
バンと銃声が鳴ると黒いもの(邪気)が消失する。
流、拳銃を帯に納める。
流「この程度なら問題ないが」
流、土筆に向かい合う。
土筆「流さん?」
流、土筆の手を取る。
流「やはり反動が緩和されている気がする」
土筆「本当に……」
流「土筆は能無しなんかじゃない。少なくとも俺はそう信じている」
土筆「(驚き)私にも出来ることがあるの?」
流「もちろんだ」
土筆、嬉しそうに頬を赤らめる。
土筆M「流さんは私を必要としてくれているんだ」

○草原、昼過ぎ
草原を歩く土筆、流、陽
流、邪気祓いをして歩く。
流「大穴は見えないが残滓として小規模な邪気が漂っているようだ」
土筆、キョロキョロしながら。
土筆「じゃぁ本当に大穴はあったの?」
流「そうだな。儀式の時にだけ口を開けるのだろう」
土筆「……だとしたら陽太お兄ちゃんの骸も口を閉じた時に消えちゃったのかな」
流、考え込む。
流「うーむ……或いは」
土筆「流さん?」
流「邪気と共にこの世とは違う場所……異界に堕ちたか」
土筆「え……?」
流「俺たち邪気祓いが虚を拾うのもそう言った異界だ。尤も訓練を受けた俺たちみたいなのしか入らない方がいい」
土筆「仮に私が入ったらどうなるの?」
流「土筆は例の力があるから定かではないが、必要な力なき者が迷い込めば邪気にまみれる。そして身体が蝕まれ切る前に邪気祓いできれば」
流が陽を見る。
土筆「虚となる」
流「そう言うこと」
土筆「じゃぁ陽太お兄ちゃんも異界を彷徨っているかもしれないの?」
流「可能性はゼロではない」
土筆「探しに……行けるの?」
流「行けないわけじゃない。俺は行った。一番大切な存在を探しに」
土筆「見付かったの?」
流「ああ。虚になってしまったが」
土筆「見付かっても虚になってしまう……記憶を失ってしまうんだよね」
流「ああ、でも会えたのなら、それだけでいい」
土筆「私も……私もそう思う」
流「ああ、一緒だな」
土筆「……うんっ」
流「仲間の邪気祓いにも頼んでおく。邪気に呑まれながらも助かる可能性があるのなら。そして探そう」
土筆「陽太お兄ちゃんを……」
流「そうだ。諦めたら終わりだろ?」
土筆、胸の前で手を握る。
土筆「うん……っ」
土筆M「記憶がなくたって、陽太お兄ちゃんは陽太お兄ちゃんだもの。もう一度……会いたい」

○草原、鳥居の外へ、昼下がり
土筆、流、陽の前に月人が現れる。
月人「(怒り)そこで何をしていた!」
土筆「月人お兄ちゃん……」
流「(驚いて)もう一人兄ちゃんがいたのか」
土筆「陽太お兄ちゃんの双子の弟なの」
月人、距離を詰める。
月人「そいつらがよそ者か」
土筆「そんな言い方をしないで!流さんたちは……」
月人「言い訳はいい。ここは村にとって大事な儀式の場。よそ者はとっとと出ていけ」
流「それは済まなかったな。だがこれも生け贄儀式をどうにかするための調査でもある。それともあんたは……」
流、月人にゆっくりと重みのある視線を送る。
流「陽太が生け贄となったことを是とするのか」
月人「(怒り)いいわけないだろう!そもそも生け贄になるべきは土筆だったのにっ」
土筆、俯く。
流「いい加減にしろよ。生け贄になるべきだったものなど、この世界のどこにもいない。もちろん土筆も、陽太もだ」
月人「お前に何が分かる!よそ者のお前に!」
流「なら内輪もののお前には分かるのか。陽太に生かされた土筆の気持ちが。土筆を生かした陽太の思いが」
月人、口を一の字に結ぶ。
月人「……」
流「少なくとも土筆に八つ当たりするのは違うと思うがな」
月人「黙れ!」
月人は踵を返して去っていく。
土筆、俯きながら。
土筆「月人お兄ちゃん……月人お兄ちゃんも昔は優しかった。私のお兄ちゃんだったの」

○土筆回想、土筆10歳、実家
土筆は転んで擦りむいた傷を兄2人(13歳)に見せる。
月人、薬を傷口に塗る。
月人「ほら、土筆。お兄ちゃん特製の傷薬だ」
陽太、笑顔で。
陽太「さすがは月人!薬まで作れるとかやっぱりいい弟を持ったぜ」
月人「当たり前だろ?でも一番は……」
陽太と月人、土筆を見る。
月人「俺たちの一番は妹の土筆だよ」
陽太「ああ、もちろん!土筆は俺たちの一番大切な妹だよ」
月人、陽太が土筆を抱き締める。土筆、幸せそうに笑む。

○回想終わり、鳥居前→家路、夕方近く
土筆、流と並んで歩く。陽、後をついてくる。
土筆「私は12歳で生け贄になる子だったのに」
流「生け贄になることをずっと知って育ってきたのか」
土筆「うん。だからお父さまも私を娘として扱ってくれなかったし、愛人とその娘をかわいがってた。(いい淀む)私は……」
土筆、俯く。
土筆「私は生け贄になるために生まれたの。だからお母さまも私を生んで……4歳になった時にもう充分だろうと出ていっちゃった」
流「(驚愕しながら)そんな……っ」
土筆「お母さまは生け贄を生むために契約結婚したけど、都に好きなひとがいたんだって。だから……都に去ったんだ」
流「(気まずそうに)土筆……」
土筆、悲しみを振りきるように。
土筆「でも代わりにお兄ちゃんたちが愛情を注いでくれたから、それで良かったの」
流「生け贄になることを受け入れていたのか」
土筆「そうだよ。お兄ちゃんたちがいて、たくさん愛してくれて幸せだったから。死んでもいいと思っていたの」
流「だが……っ」
土筆、立ち止まり流が振り返る。
土筆「分かってる。陽太お兄ちゃんは私を生け贄にする気はなかったんだって」
土筆、目を閉じ陽太を思い出す。
目を開ける。
土筆「そして自分が生け贄になることで私を生かしたの」
流「そうだな」
土筆「だけど月人お兄ちゃんはそれに怒ったの。私が生け贄にならず、陽太お兄ちゃんが死んだことに」
流、表情に迷いを見せる。
流「何だか納得いかない」
土筆、首を傾げる。流、悔しげに。
流「どうしてあいつは……っ」
土筆「陽太お兄ちゃんは月人お兄ちゃんにとっても大切な存在だったから」
流、憤るように。
流「だからって陽太は土筆を守ろうとしたんだ。それを当て付けのように土筆に冷たくして……」
土筆、決意を持つように掌を握る。
土筆「だい……じょうぶだよ」
土筆、そっと流の手を取る。流は土筆をじっと見つめる。
流「土筆……」
土筆、泣きそうな表情を浮かべる。
土筆「私、ずっと絶望の中で後悔してた。何で私が生き残ったんだろうって。だけど……」
土筆、穏やかに笑む。
土筆「流さんが教えてくれたから。陽太お兄ちゃんは私を生かそうとしてくれたんだって。だから……私……もうここまでで大丈夫」
土筆、実家に向かって駆けていく。土筆を見送る流。
流「土筆……」
流M「あの子はこの村にいることで延々と苦しみを背負い続ける」
流、袂から手紙を取り出す。
流「俺に事後調査を依頼したものがこの村にいる」
手紙文面『生け贄に成りそこなった巫女を村から解放してやって欲しい』
流M「誰がそれを願っていたのか……」
流は疑問に思いながらも村長宅に足を向ける。