能無しと呼ばれた少女は草原に還る



○本殿、早朝
本殿中央に集まる土筆たち。
渦「まずやるべきことは大穴を解放し正しい儀式を完了させることよ」
流「つまりは高い霊力を持つものを捧げて少しでも蒔の邪気を抑えるんだ」
月人、怨みを込めるように。
月人「ひとり、うってつけの人材がいるな」
陽太「ああ。むしろ誰よりも生け贄の儀に相応しいくせに」
土筆「それじゃぁ捧げられるのは茉莉花?」
流「突き落とされた腹いせに霊力をたんまり捧げてもらおうか!」
土筆「その後茉莉花は虚になるってと?」
土筆M「それって何だか逃げ得されているような」
渦が首を横に振る。
渦「いいえ、虚になって記憶や罪から逃げるだなんて許さないわ」
流「それもそうだ。これはあり得ることだと思うんだが。渦」
渦「言ってみなさい」
流「あの女は邪悪すぎて邪気に呑まれない」
土筆、驚く。
土筆「どう言うこと?」
渦「邪気に呑まれるってことは邪気で穢れるってことよ。だから元々穢れているのなら邪気に呑まれず養分だけ吸い取られるってこと」
なるほど、と頷く土筆。
渦「それじゃ、次は大穴を開ける装置ね」
月人が手を挙げる。
月人「それなら案内する。今回の生け贄の再儀で見せられたからな」

○本殿、装置の間、明け方
一堂の前にはからくり装置がある。
月人「やはり鍵は祭主が持ち運んでいるか」
一堂の後ろにシュタッと登場する静。みな驚く。
土筆「あ、あなたは確か……!」
静、ウインクする。
静「霧裂静。霧裂家分家筋の憲兵のお兄さんだよ」
流「どうやって忍び込んだんだよ」
静「村の秘密の出入口から神社の詳しい地図まで。一通り提供してくれた協力者がいるからね」
流が陽太を見る。
陽太「流が出発した後、急いで書き上げてたんだ」
流「そう言うことだったか。ありがとな」
陽太「こちらこそ」
✕✕✕
静「そんで祭主が持っている鍵だったかい?いいだろう。お兄さんたち憲兵隊が秘密裏に奪取してあげよう」
流「目算はあるのか?」
静「もちろんさ。今日は何でも祭主の娘茉莉花と村長の息子葵の結婚式だそうだ。浮かれている祭主なら隙ありありさ」
土筆「茉莉花と葵が結婚!?」
月人、溜め息をつく。
月人「葵は確実に嫌々だろうが村長が軟禁されている以上断れないのだろう」
流「つまりはぶち壊してやった方が葵のため」
静、携帯食を広げながら。
静「そう言うわけで、憲兵隊がちゃちゃっと準備をしている間に腹ごしらえを済ませておいてよ。これから大仕事なんだからね」
流、苦笑しつつ頷く。
流「それもそうだな」

○本殿、装置の間、9時
秘密裏に潜入していた誉、時雨、由良、美桜が駆け付ける。
誉「ぼくたちも協力しよう」
時雨「山茶礼の大叔父の悲願だかんな」
由良「邪気祓いがこれだけ揃えば恐いものなしよ」
流「みんな……!」
土筆「ありがとうございます!」
そして静が鍵をじゃーんと掲げる。
静「いやぁ、楽勝楽勝。祭主たちは朝から宴の盛り上がり、茉莉花の花嫁行列が間もなく神社に到着する」
流「なら、作戦決行だ!」
月人、鍵をセットし頷く。
月人「開けるぞ」
月人がカラクリを動かすと何処かで地鳴りのような音がする。
月人「大穴が開いた!」
流「よし、行くぞ!大穴に!」
土筆「うん!」

○巫隠村神社鳥居前、朝9時
花嫁衣装に身を包み得意気な茉莉花と浮かない顔の葵、満足げな祭主(父)と後妻一行。
茉莉花「ふふっ。邪魔な土筆も生け簀かないあの男もいなくなって、まさに私の天下だわ」
その時周囲から悲鳴が上がる。茉莉花、空を見上げる。空には草原から伸びる邪気の手。
茉莉花「きゃあぁぁぁっ!?何よあれぇっ!」
茉莉花、葵に手を伸ばす。
茉莉花「あ、葵さま、助け……っ」
葵、咄嗟に茉莉花を突き飛ばす。
葵「うわあぁぁっ」
茉莉花、邪気の手に掴まれ引きずり込まれる。
茉莉花「(恐怖)イヤアァァァッ」
引きずり込まれる茉莉花を呆然と見る葵、祭主、後妻。
彼らの影に忍び寄る憲兵隊の脚。

○草原、朝9時、晴れ
草原に駆け付けた土筆たち一堂の前に立ち上る邪気の柱。
土筆「流!」
流「ああ。まるで待っていたように吹き上がった!」
邪気の柱は手となって一目散に花嫁行列に向かう。茉莉花の悲鳴が上がる。
流「予想通り茉莉花を吸収したか」
邪気の柱は巨大な球体を描き、その中心に蒔の姿。
蒔、悲しげな表情。
蒔「さ……ざれ……さん……。引き剥がされた。あの人と……一緒に行きたかった」
土筆「(悲痛そうに)蒔さん……っ」
蒔、憤怒の表情に。
蒔「でも見付けた……ずっとずっと待ち続けた……お前を」
渦、気が付いたように。
渦「直視して分かったわ。あの娘の魂、蒔を殺した異母妹と同じね」
茉莉花の肌が一瞬にしてシワだらけになり、草原に打ちはてられる。
渦「見て!蒔の邪気が落ち着いたわ!今が邪気を祓う好機よ!」
流「それじゃぁやるか」
流が拳銃を構える。誉がその手に手を重ねる。
誉「ぼくの霊力も弾に込めてくれ」
時雨、由良も手を重ねる。
時雨「そう言うことなら」
由良「私も」
流「ああ、みんな。ありがとう」
誉たちが拳銃から手を放し、一歩退く。
流、まっすぐ蒔を見つめて。
流「土筆、反動で揺れる。しっかり掴まっていてくれ」
土筆、流の腰に斜め後ろから腕を回す。
土筆「……うん」
流「一緒に蒔を救うんだ。しっかり受け止めてくれ」
土筆、蒔をまっすぐに見つめる。
流「さぁ、受け取ってくれ」
流が引き金を引く。4人分の霊力を帯びた弾が蒔の邪気に命中する。
反動が光となって押し寄せる。
土筆M『受け止めなきゃ……っ!』
流「ぐ……っ」
次の瞬間。
流、土筆『(息を呑む)……っ!』
邪気は消え、蒔の髪は白く目は金色に、肌は抜けるように白く。
流、銃口を下ろし土筆と蒔の元へと向かう。
土筆、蒔の手を取る。
土筆「蒔さん」
蒔の手に2人分の勾玉の腕輪を握らせる。
土筆「記憶は元通りにしてあげられないけど、蒔さんが大切なひとを思う心が戻りますように」
蒔「ありがとう、土筆」
土筆「……私の名前」
蒔「教えてくれたから」
土筆M「石碑の前で交わした記憶だけは私と蒔さんの記憶を結んでいるんだ」
蒔「だから今度は私が行く番」
蒔は土筆から手を放す。草原には光が満ちている。
蒔「(寂しそうに)虚の目でもこの光の中は平気なの。名前も顔も思い出せないけど、愛した人への気持ちがあれば寂しくないから」
土筆「(涙ぐむ)蒔さん……っ」
蒔は草原の向こうを再び臨み、固まる。流にそっくりな青年が手を差し伸べている。
山茶礼「蒔」
蒔は大粒の涙を流す。
蒔「あなたは……っ」
山茶礼「やっと迎えに来られたね」
蒔「何も……思い出せない。だけどあなたが何よりも大切だったことだけは覚えてる」
蒔、腕輪の片方を渡す。山茶礼受け取り2人はそれぞれ腕輪をはめる。
山茶礼「ああ。いいんだ。それだけで。ぼくは山茶礼。もう一度、呼んでくれないか」
蒔「(涙ぐみながら)ええ。山茶礼さん」
蒔は山茶礼の手を取り土筆を振り返る。
蒔「土筆、行ってきます」
土筆、腕を挙げ手を振る。流、土筆の傍らに優しく寄り添う。
土筆「行ってらっしゃい」
土筆N「大穴に囚われていた魂は草原の向こうへ、光の中へ溶けていく」
土筆、横に並んだ渦を見る。
渦「さて、私もそろそろ行こうかね」
土筆「渦さんも行っちゃうんですね」
渦「そうだねえ。あの子たちが迷わないよう導いてあげなきゃね」
土筆「はい!いろいろと……ありがとうございました!」
渦「ふふ……っ。あんたたちこそ、お幸せにね」
渦はきらきらと輝く魂たちを引き連れながら、草原の光の先へと溶けていく。その幻想的な光景を見守る一堂。

○霧裂家、昼
白無垢を着て、流と祝言を挙げる土筆。
土筆M「あの騒動から1ヶ月後、私と流は祝言を挙げた。霧裂家のみんなと私の親族として陽太お兄ちゃんと月人お兄ちゃんが参列してくれた」
流「土筆、これからも幸せにする」
土筆「うん……!流!」
土筆M「月人お兄ちゃんは号泣して陽太お兄ちゃんに慰められていたけれど、こうして大切な兄2人に見守られて祝言を迎えることが出来て幸せだ」

○霧裂家、朝、いつもの日常
土筆、仕事に向かう流と陽太を見送る。
土筆M「村にも大きな変化があった」
憲兵隊に連行される祭主、後妻、シワシワになった茉莉花。
土筆M「あの後茉莉花たちは憲兵隊に連行され」
茉莉花、月人を呼ぶが月人はふんと顔を背ける。
土筆M「茉莉花は月人お兄ちゃんにすがろうとしたけれど、月人お兄ちゃんは完全に拒否」
葵や村長が走り回る姿。
土筆M「神社や洞窟の崩落に加え祭主一族、一派の権威は地に落ち、今は村長を中心に村の再建に乗り出しているそうだ」
月人が薬問屋で働く姿。
土筆M「月人お兄ちゃんは結局村を出て、今では都で生活をしている」
土筆、空を見上げながら。
土筆M「陽太お兄ちゃんは虚であることに代わりはないと相変わらず流の相棒をこなしている」
土筆「私も出来ることをしないと」
土筆M「邪気に関する事件はまだまだ都を騒がせている」
土筆は書庫から本を取り出しページをめくる。
土筆「2人が帰ってくるまでに勉強しておこう」
土筆M「似ていても、違う。まだまだこの世界は知らないことばかりだ。だけどこれからも流と一緒に歩んでいきたいから」

【完】