○巫隠村神社牢屋、深夜3時
月人が入れられた牢の前に立つ陽。月人、驚いて立ち上がる。
月人「(陽の正体に気が付いているように)お前は……っ」
陽「月人」
月人、牢の鉄格子を手で握る。
月人「やはり……お前なのか、陽太!」
陽、面布をめくる。
陽太「気が付いていたのか」
月人「当たり前だ。お前は俺の片割れなんだぞ!だが……姿も変わって土筆とは他人のように……」
陽太「記憶を取り戻したのは土筆を拐われた時だ。あの時、完全に思い出した。それまではあの子が愛おしいと言う感情ばかりが巡っていたのに」
月人「ああ……ああ、そうだよ。陽太。あの子は、土筆は俺たちにとって何よりも大事な子だ」
陽太「そうだ。お前は……あの子のために敢えて悪役に回ったのか」
月人、苦しげに。
月人「そうしないと……あの子は村に未練を残す」
陽太は困ったように笑む。
陽太「そのために流に調査依頼まで出して」
月人、脱力したように。
月人「ばれていたのか」
陽太「ああ。今なら分かる。あれはお前の字だ」
陽太、面布を戻すと牢の閂を開ける。
月人「鍵をどうやって……?祭主が持っていったんじゃ……」
月人、牢から出る。
陽太「予備の鍵の在処を覚えてる。祭主から教えられる村の秘密の出入口も」
月人「そこから来たのか」
陽太「ああ。そして増援も来る手筈だ。早く土筆と流を迎えに行こう」
月人、躊躇いがちに。
月人「だが、土筆は……。祭主がここまで儀式を猶予するとは思えない」
陽太「生きている。必ず生きている。分かるんだ」
月人「(驚いたように)え……?」
陽太「虚になったからか、分かるんだ」
月人「そう言えばお前は……どうして生きているんだ?」
陽太「大穴に落とされた俺は虚の無数の手に支えられて生きながら得た。そこで恐ろしい邪気に呑まれたよ」
月人「それなら……何故」
陽太は腕輪を見せる。
陽太「これを託された。大穴の底で待つ彼女に、霧裂家へ通じる縁を託された。それを辿って異界を渡り……俺は流に邪気祓いされ虚になった」
月人、腕輪を見つめて。
月人「その腕輪は」
陽太「多分彼女が霧裂家の邪気祓いにもらったもの……彼女は多分……蒔だよ」
月人、驚愕する。
月人「始まりの生け贄の巫女……」
陽太「多分真実は違うだろうけどね」
○虚巫女の間、深夜3時
虚巫女の間から渦に案内され脱出する土筆と流。
土筆は不思議そうに古い造りの屋内を見ている。
土筆「神社にこんな区画があるなんて……知らなかった」
渦「虚巫女が生け贄の巫女に代わった時点で必要なくなったのね。私が最後の虚巫女を務めた後に封じられたのよ」
流、首を傾げる。
流「しかし大穴は?祭主が大穴を管理するなら岩戸まで封じたら困るんじゃないのか」
渦「それがね、不思議なことに祭主は大穴を管理できる仕組みを持っている」
流「あれは人工的に開閉出来るのか?」
渦「そうよ。そうして蒔の邪気の力が地上に放出されないように定期的に生け贄を入れるのよ」
流「しかし一体どうなっている?」
渦「神の力を持つ巫女が生まれる家系。超常的な開閉を可能とする技術を得ていてもおかしくはないわ。現に虚を人工的に作っているわけでしょ?」
流、溜め息をつく。
流「確かにな」
渦「もしかしたら大穴は元々空いていたものかもしれない。しかし開ける必要がなかったから閉ざしてきた」
流「だが蒔の怨念が突き破ってしまった」
渦、辛そうに。
渦「そうね……あの子は」
土筆、心配そうに。
土筆「渦さん」
渦「(後悔するように)私が邪気祓いに会わなければあの子も山茶礼と会うことはなかった。あの子はあんな姿になることはなかったかもしれない」
土筆は渦の手を握る。
土筆「違います!」
渦、虚をつかれたように。
渦「……っ」
土筆「蒔さんは山茶礼さんの名前を呼んでいました。必死で、辛そうに。助けを求めてました!」
渦「あの子はまだ山茶礼のことを覚えていたの」
流も土筆に加勢する。
流「そうだ。そして山茶礼だって忘れてないさ」
渦「でも山茶礼はとっくの昔に……」
流、渦をじっと見つめる。
流「いいや、覚えてるさ」
渦「(息を呑む)……っ」
流「俺たちが覚えてる。山茶礼の思いを。記憶を。ずっとずっと受け継いできた」
渦、涙を流す。
渦「……ありがとうっ。忘れないでいてくれて、ありがとう」
土筆、泣きじゃくる渦を優しく抱き締める。
土筆「渦さん」
渦「うう……っ」
○巫隠村神社本殿、明け方
泣き止んだ渦を連れ、再び歩く3人。
土筆「ここら辺は覚えてる。もし月人お兄ちゃんが閉じ込められているとしたら牢に!」
流、思い出したように。
流「そう言えば土筆、月人は……」
土筆「月人お兄ちゃんは演技をしていただけなの。本当はずっと私のお兄ちゃんだったの」
流「ああ。俺も月人のお陰で村に入ることが出来た」
土筆「月人お兄ちゃんの……?」
流「ああ。月人が祭主の直系にしか受け継がれない抜け道を村人たちに託してくれた。祭主ではなく村長の味方の村人たちだ」
土筆「村長の……(驚きを隠せずに)村の人たちは祭主側だと思っていた」
流「ああ、思ってしまうよな。だが、村人たちだって好き好んで家族を生け贄に出したい訳じゃない」
渦、同意する。
渦「虚巫女もそうだった。記憶も感情も失った虚巫女は記憶にない家族や大切なひとたちの悲しみを覚えて死んでいく」
流「虚は失うだけで、覚えることは出来るからな」
渦「そうね。歴代の祭主たちは祀り上げる都合のいい人形としか思っていなかったから知らなかったのよ、私たちが悲しみを背負うことを」
流「だからこそ、虚を自ら作るなんてとんでもない。邪気に呑まれたのなら救ってやりたい。それが悲しみを背負うことでも」
渦「山茶礼も同じことを言っていた。あなたは彼に似ているわ」
流「ようやっとその悲願を果たせるんだろうか」
渦「ええ。救ってあげて。虚巫女の儀を終わらせてくれたあの子を……蒔を」
流、土筆、決意を込めて。
流「ああ」土筆「はい!」
○牢屋、明け方
空の牢屋を探す土筆たち。
土筆「ここにはいない。月人お兄ちゃんは別の場所に連れていかれたの?」
流、何かに気が付く。
流「陽。陽が来てる」
土筆「ひな……っ、陽さん」
流、首をかしげて。
流「土筆?」
土筆「その……っ、ずっと言おうと思ってたの」
流「ああ」
土筆「拐われる瞬間、陽さんの素顔を見たの。陽さんは……陽太お兄ちゃんだよ」
流、息を呑む。
流「何……っ」
その時足音が近付き、流が警戒する。
渦が冷静に告げる。
渦「迎えが来たようよ」
✕✕✕
流たちの前に陽太と月人がやって来る。月人は一目散に土筆を抱き締める。
土筆「月人お兄ちゃん!」
月人「土筆……!ああ、生きていてくれた!土筆」
月人、抱擁を緩め土筆と目を合わせる。
土筆「うん、月人お兄ちゃん。生きて還ってこれたよ」
土筆、続いて陽太を見る。
土筆「陽太お兄ちゃんも」
月人「お前も気が付いていたのか」
土筆「うん。月人お兄ちゃんも?」
月人「昔から似てないとは言われてきたが、それでも俺と陽太の間には他人には分からない絆があるんだ」
月人、陽太の手を取り招く。土筆、渦を紹介するように見る。
土筆「陽太お兄ちゃん。ここにいる渦さんに聞いたの」
土筆、陽太の手を握る。
土筆「陽太お兄ちゃんの記憶が戻るかもしれないって」
陽太「その必要はない。土筆」
土筆、驚いて陽太を見上げる。
土筆「……えっ」
陽太「もう全て思い出した。何もかも」
陽太は腕輪を外して土筆に預ける。
陽太「この腕輪を託してくれたのが蒔さんだってことも」
土筆「(目を潤ませながら)蒔さんが苦しみながらも……託してくれたんだね」
土筆、決意を新たに。
土筆「だから私……蒔さんを救ってあげたいの!」
陽太、頷く。
陽太「ああ、俺もだよ」
土筆は蒔と山茶礼、2人の腕輪を大切に抱き締める。


