○巫隠村神社、牢の中、夜
土筆、白い着流し姿で牢の中にぶちこまれる。
土筆、未だ呆然としている。
土筆M「そんな……っ」
思い出す、陽の面布の下。
土筆M「あの面布の下の顔は……陽太お兄ちゃんだった」
土筆、目を潤ませる。
土筆M「陽太お兄ちゃんはずっと側にいてくれていたんだ」
牢屋に近付く音に土筆はハッと顔を上げる。
土筆「……お父さま」
土筆M「記憶を取り戻す前の私は生け贄になることを受け入れていた。だけど前世の記憶を取り戻した今なら」
土筆、胸元に手を握り目を閉じる。
父「儀式は夜のうちに執り行う。また逃げられてはもともこうもない」
父、後ろを向き去っていく。
土筆M「こう言う時、どうにかして足掻こうとするのが転生者だ。どうにかして逃げなきゃ」
土筆、目を開ける。
土筆「霧裂家に、流さんや陽太お兄ちゃんの元に帰らなきゃ」
✕✕✕
再び牢屋を訪れる足音。徐々に見えたのは月人の姿。
土筆「月人お兄ちゃん……?」
土筆M「どうしてここに?」
月人は牢屋に手をかける。
月人「土筆」
土筆「(身構えながら)……?」
月人「今すぐ逃げるんだ」
土筆「(驚きながら)……え?」
月人「今度はたとえ俺が身代わりとなっても陽太の二の舞だ」
土筆M「どうして月人お兄ちゃんが私の身代わりになろうとするの!?」
月人「またすぐに土筆を生け贄にしようとする」
土筆「(まだ疑いながら)どうして……私を逃がそうとするの?」
月人「陽太と……約束したから」
土筆「陽太お兄ちゃんと?」
月人「どんなことがあっても土筆を守ると」
土筆「……えっ」
月人、鍵を取り出し解錠しようとする。
月人「いいからお前はすぐにこの村から……っ」
月人、後ろから村人に殴られる。
月人「うぐっ」
月人、崩れ落ちる。
月人の後ろには父親と村人たち。
父「念のため見張りを用意しておいて助かったぞ」
土筆「(ショックを受けながら)そんな……っ」
父「まさかお前が裏切るとはな。これは別の牢に幽閉しておけ!」
意識を失った月人が村人たちに引きずられていく。ひとり牢屋に残った土筆、涙を溢す。
土筆「月人お兄ちゃんはずっと私のお兄ちゃんだった……」
土筆M「まさかわざと冷たくしたり、茉莉花側についたと思わせたのは……」
流、陽と村を後にする風景。見送るように去っていった月人の人影。
土筆「私が村に戻る理由を残さないため」
土筆M「全てはそのためだったんだ」
○都→巫隠村道中、夜、晴れ
夜道を馬で駆ける流。
流「見えてきた!巫隠村だ!」
流M「あそこに土筆が!」
流、巫隠村の一点に火の光の群れを見る。
流「あれは……鳥居の草原の方向か?急がないと……」
流M「儀式はもう始まっているかもしれない!」
流は馬を加速させる。
○巫隠村神社牢屋、夜
牢の中から閂をなんとかしようとする土筆。
土筆「ダメ……やっぱり鍵がないと……」
土筆M「だけどもう生け贄になんてなりたくない。生きたいの」
流に手を引かれて村を出る土筆の記憶。
土筆「陽太お兄ちゃんにも出会えた。記憶はなくても大切なひとを思う感情なら思い出させてあげられるから!」
土筆M「記憶はこれから作っていけばいい」
土筆のもとに足音が響いてくる。
現れた父と村人たち。
父「時間だ、土筆」
土筆M「そんな……ここで終わりなの?」
牢を出され縄で繋がれ歩かされる土筆。
土筆M「月人お兄ちゃんも捕まってしまった。陽太お兄ちゃんの手を取れなかった」
土筆の脳裏に思い浮かぶ手を引いてくれる映像。
土筆M「……流さん」
土筆の回想、流『諦めたら終わりだろ?』
土筆M「(決意を胸に)そうだ……諦めたら終わりだ」
○巫隠村入口、夜、晴れ
封鎖された村の入口を見て悔しがる流。
流「意地でも入れないつもりか!」
馬で墓地の抜け道に向かう流。
流M「なら村を出る時に使った抜け道は……!」
柵で頑丈に封鎖された道に呆然とする流。
流「そんな……」
その時柵の向こうから村人たちの声がする。柵の隙間から数人の人影が見える。
村人「おーい、そっちにいるのか」
村人「間違いない。あの時のよそもんだ」
流「お前たちは何者だ?」
村人「俺たちは……」
村人「村長に頼まれたんだ」
流、ハッとして。
流「村長?村長とは会えるのか」
村人「土筆を逃がしたとして祭主一派に葵と一緒に軟禁されてる」
流「(悔しそうに)そんな……っ」
流M「俺たちを逃がしたばかりに……っ」
村人が柵の隙間からメモを差し込む。流、メモを受け取る。
流「これは?」
村人「草原方面からならまだ村に入れる。あそこには代々祭主しか知らない裏道がある」
流「それなら何故お前たちはそれを知っている?」
村人「月人が葵に教えたんだ」
村人「月人は祭主を継ぐ。その道を受け継いだ」
流「(驚きながら)月人が!?」
流M「敵側ではなかったのか?」
流「だがお前たちはどうして祭主に反そうとしているんだ?」
村人「祭主一族で巫女に相応しいものがいなければ村娘から選ばれる」
村人「誰が好き好んで家族を生け贄に差し出すものか」
流「(申し訳なさそうに)そうだったか……」
村人「土筆を救ってやってくれ」
流「(決意を新たに)もちろんだ。俺はそのために来たんだからな」
流、草原の入口に向けて馬を駆る。
流M「今追い付くぞ、土筆!」
○巫隠村神社鳥居前、夜、霧
大穴の前に立たされる土筆。集まる村人、祭主(父)、茉莉花、後妻。
茉莉花は襟にレースの付いた着物を着ている。
土筆M「あれ、私が着てきた襟にレースの付いた着物だ」
茉莉花、襟元のレースを弄りながら得意気に笑む。
土筆M「私を生け贄にする前にちゃっかり着物だけ猫ババするなんて」
茉莉花に呆れながら大穴を静かに見つめる土筆。
土筆M「大穴が再び開いている」
茉莉花が笑う。
茉莉花「ようやっと捕まったのね。生け贄。早く死んだあんたの『陽太お兄ちゃん』と同じように人柱になればいい」
フラッシュバックする陽太との別れ。
土筆「……っ」
土筆、振り払うように首を横に振る。
土筆M「ううん、陽太お兄ちゃんは生きていたんだ。だから帰らなきゃ」
父「さあ、飛び込め。自ら人柱となれ」
後妻「(歓喜しながら)ああ、やっとあの女との邪魔な子どもが死ぬのね!」
茉莉花「でも月人お兄さまだけは別よ、お母さま。月人お兄さまは私のものなんだから」
土筆、茉莉花を冷めた目で見る。
土筆M「月人お兄ちゃんはずっと私のお兄ちゃんだ」
父、土筆を牽引する縄を緩める。
父「さぁ、飛び込め!」
土筆、足を踏み出す。
土筆M「最後まで諦めない!」
次の瞬間土筆、踵を返し逆方向に走る。
土筆M「逃げなきゃ……っ!」
父「逃げるぞ!」
村人「逃がすな!」
村人たちに強引に大穴に突き飛ばされる。
土筆の背中に闇が広がる。
土筆「嫌……っ!」
バン、バンと発砲音が鳴る(流の銃声)。
馬で全速力で駆けながら銃を発泡し村人たちが逃げる。
流「どけぇ――――っ!」
流、馬から勢いよく飛び降り、大穴に腕を突っ込み土筆の牽引紐を掴む。
流「土筆ぃ――――っ!」
土筆、涙目で見上げながら。
土筆「流!」←『さん』付けが取れる
流「安心しろ、今引っ張る!」
土筆「(うるうるしながら笑顔で)うん……!」
土筆、茉莉花が流の後ろに迫るのを見る。
土筆「(顔面蒼白)流、後ろ!」
流振り向きざまに茉莉花の笑みを見る。
流「何っ!?」
茉莉花、流を突き落とす。
流「うわあぁっ!」
土筆「流えぇ――――っ!」
2人が大穴に落ちていく。上から見ながら茉莉花が笑う。
茉莉花「はは……っ、あはは……っ!やっと死んだ!邪魔な土筆、私を選ばなかった邪魔な男!はっはっははははっ!」
霧が晴れ満月が覗く中、茉莉花の笑い声が響く。その目の前に大穴はなく草原が広がっている。
茉莉花「あははははははっ!」


