思い出の場所、と言ったら。
私は人のまばらな廊下を歩いて、空き教室の方へとやってきた。文化祭でもこのあたりの教室はあまり使われていないようだ。
目当ての教室の扉に手をかける。
ガラガラ、と音を立てて、扉を開けた。
「……日向」
日向は、そこにいた。
あの時の私みたいに、窓辺に寄りかかって、外を見ていた。
教室の中央には、申し訳程度の画用紙でできた手作りらしきクリスマスツリー。私と日向のほかには、誰もいない。
「くるみ、先輩」
振り向いた日向は、なんだか泣きそうな風に笑った。
「昨日は、急に走っていったりしてごめん」
「いえ、そうなるのも当然ですから。大丈夫です」
私は日向の隣に並んだ。ふわりと冬の冷たい風が吹き抜ける。
「日向は、どうして私を助けてくれたの?」
唐突な質問に、日向は困惑した風だった。
「……先輩に、笑顔になってほしかった、幸せでいてほしかった、から……」
言葉尻が消えそうに掠れて、視線が床に落ちる。
「私も、同じだよ」
揺れるカーテンの向こうで立ち尽くす日向に、拒む間がないくらいの勢いで、ぎゅっと抱きついた。
「っくるみ先輩」
戸惑う日向の背中に腕を回したままで、私は言う。
「ちゃんと、言わせてほしいの」
日向が私に戻してくれた、この声で。
「私を、貴方の恋人にして」
やっぱり顔を見るのは恥ずかしいから、彼のシャツに顔を埋めたまま。
「もっと、ちゃんと私を見て。日向のことが大好きで、笑ってる私のこと。日向がいてくれるから、こんなにも幸せな私のこと」
おそるおそる、少しだけ顔を離して、日向を見上げる。
「一日限りじゃなくて、ずっと一緒にいたいの。だって、両思いなんだから!」
気恥ずかしくて頬が染まる。
それでも、自然と笑みが零れた。
九年分の、恋を込めて。
「……くるみちゃん」
ゆら、と日向の瞳が、微かに揺れる。きらりと光る一雫が、その頬を流れた。そうして彼はやっと、小さな頃みたいに、笑った。
「くるみちゃんの頬、真っ赤だ」
日向の手が、そっと私の頬に添えられる。
「僕も、貴女の恋人になりたい」
唇に触れる柔らかな感触に、私は目を閉じた。


