慌ただしく玄関を開ける。
「おかえり胡桃。どうしたのそんなに急いで」
「お母さん!」
リビングから顔を出したお母さんは、目を見開いた。
「胡桃、声が……」
「お母さん、カメラ!カメラ見せて、早く!」
焦って告げると、お母さんは一瞬で我に返り奥の部屋へ引っ込む。待っている時間がもどかしい。早くしないと。今日が終わってしまったら、私と日向は恋人同士じゃなくなる。そうしたら……もう二度と会えないような気がして。
慌ただしい足音とともに、お母さんが戻ってきた。その手には、赤いカメラ。少し外側のプラスチックが割れている。
「胡桃……ほんとうに、いいのね?」
確認するように、私を見つめる。
私はゆっくりと頷いた。
「もう大丈夫。ありがとう、今までずっと守ってくれて」
葛藤を抱えて、それでもお母さんとお父さんは、私に真実を隠し続けた。私を守るために。
「胡桃が幸せなら、それでいいの」
お母さんは微笑んで、カメラを差し出す。
私はそれを受け取った。
昔のもので少し割れているけれど、ボタンを押すとしっかりと液晶が光った。一番最後に撮った写真。それを、液晶に映す。
あの公園の、クリスマスツリーの下。
ふたり並んで、撮った写真。
その中の日向は――とても幸せな笑顔だった。
やっぱりそうだ。
今の日向の笑顔は、仮初だ。
あの頃みたいに、心から幸せな日向の本当の笑顔がまた見たい。
「私、行ってくるね!」
「ちょっと胡桃!?」
私はそのまま家を飛び出した。
さっきの公園へ向かって。
私の忘れていた過去。
それは確かに、ともすれば私を変えてしまうほどのものだった。日向の幸せを奪った、その原因を作ったのは私だったのだから。離れたほうがいいのかもしれない。その方が、日向は平穏な日々を送れるのかもしれない。そうも思った。
でもあの写真を見てわかった。
やっぱり今の日向は、全然幸せそうじゃない。
このまま距離をとるなんて、それこそ無責任だ。彼が私の声と記憶を蘇らせてくれたように、私も彼の世界を、色づけたい。
「日向!」
――その公園に、日向の姿はもうなかった。
まだ近くにいるかもしれない。
そう思って、探して探して、家が近いと言っていたあの神社まで足を伸ばしても、とうとう日向は見つからなかった。
今日が、終わる。


