長い冬を越えて、日向に芽吹く


我が新聞部は、現在3年生2人、2年生2人の、計4人という最小部活である。今年卒業した先輩が3人いるので、一気に少なくなったというわけだ。して、今最小部活である新聞部の最大の課題は……。

「部員が欲しい!」

入学式の次の日。いつものように新聞づくりのため集まった私達。編集をしていた部長がいきなりそう大声で叫んだ。

部長――土屋直樹。昨年度は副部長を務めていたが、先輩からその役目を引き受け、頼もしく活躍中。副部長の時から存在感がありほぼ部長のようなものだったので、違和感は全くない。ただ残念なところを上げるのならば……彼はかなりの変わり者である。

「部長うるさーい。そんなん今嘆いてもなにも変わんないよ」

気だるそうな返事を返すのは、コンビニで買ってきたソーダ味のアイスを食べている鈴花先輩。

外谷鈴花。部長のなだめ役としても定着している、いつも気怠そうな3年生の先輩。アイスが大好物で、夏だろうと冬だろうと関係なくアイスを食べている。その割にはスタイル抜群である。いつも、取材ができず、写真しか撮れない私に付き添って私の代わりに質問してくれる。
手のかかる部長の幼馴染なだけあって、面倒見のいい人だ。

「まあ、でも……、部長の言ってることは、確かに同意です」

神妙な顔つきでうんうんと頷いたのは、私と同学年の恵くん。

笠原恵。この新聞部で一番まともな人物と言える。現在副部長を務めるしっかり者。私が作業のことで困っていると、いつも手伝ってくれる。文武両道の人気者だ。

改めて考えると、私って面倒を見てもらってばかりだ。

「いやぁやはり恵くんは話が分かる子だな。というわけで、早速今からみんなで部員募集に出るというのはどうかな?」

「え。今から?むりーまだ食べ終わってないし」

全く腰を浮かす気配のない鈴花先輩。

「でも、新聞部って募集して集まるような部活じゃないですよね……」

「そうなんだよ!だから俺は策を考えた!」

どんっと机を叩いて立ち上がる。

「その名も〝他部活見学取材〟!」

拳をつきあげる土屋先輩に、呆れがちな鈴花先輩の声。

「あー、要するに、他の部の見学してる一年生に無理矢理声かけて掻っ攫ってこようって魂胆ね」

「そうとも言う。さあ、先ずは吹奏楽あたりから攻めようか!行くぞ恵くん!」

「えっ!?ちょっと待ってください〜!」

身一つで部室を出ていった先輩を、取材道具を慌てて取り出した恵くんはわたわたと追いかけて行った。

「ふー。やっと静かになったわ」

くるみん、グミ食べる?と誘われて、私もおやつタイムに入る。因みにくるみんというのは鈴花先輩が私にあってそうそうつけたあだ名だ。そう呼ぶのは鈴花先輩だけだけど、響きが可愛いので割と気に入っている。それはそうと、恵くんはいつも振り回されて気の毒だ。

「そーいえば、くるみんはもう1年と会った?昨日取材に行ってたみたいだけど」

『入学式で見ただけですね。あっ、でも……』

書きかけて止める。うーん、昨日のあれは、まさか夢とかではないよね?

「え、なになに気になるって」

『昨日、ぼーっとしてたら階段から落ちそうになって、1年生に助けてもらったんです』

うんうん、これでいいだろう。余計なことは言わない。

「あーね。それが寄りにもよって、超イケメンの男子だったってことか。それで昨日から、なんかおかしい感じだったのか。なるほどね〜」

な、なぜわかった?

「まるで漫画だなーそれは。もはや運命?」

否定したいけど、実際ちょっとどきりとしてしまったから何も言えない。こんな風に、誰かが気になるのは初めてだった。これが恋っていうもの?一目惚れなんてあるわけないと思っていたけど、自分がなってしまったんだから認めざるを得ない。

「それじゃあわたしたちも取材行こうか?」

へ?

「その子、探しにいくの」

キュッ。
床の擦れる音が響く。
次の瞬間、バスケットボールはきれいにゴールに吸い込まれていった。

「おー。すご」

言葉の割に平坦な声色で鈴花先輩が呟く。私達は運動部を片っ端から回る作戦を実行していた。土屋先輩たちが文化部の方に行ったから、というのもあるが、あのタイプの人気者が出没しそうなのは陽キャが揃う運動部だと踏んだのもある。けれど……。

『いませんね』

「そうねー」

予想に反して、全く姿が見えないのだった。もうこれで運動部は全部回ってしまったし、これで降り出しに戻ったことになる。まあ駄目で元々なわけだし、別にいいか、と言い聞かせるように何度も反芻する。

「くるみんは、もう帰ります?」

『そうですね、もう少ししたら帰ります』

「じゃあまた明日ね〜」

手をひらひらしながら行ってしまった。
もう少ししたら、というのは、忘れ物を取りに戻るためだ。今日日本史の課題が出ていたことを今の今まで忘れていたのだ。このタイミングで思い出さなかったら、明日の朝急いで学校に来てやる羽目になっていた。体育館から教室棟へ移動する。この高校は昔はもっと生徒が多かったらしく、ところどころ空き教室がある。今はもう物置と化しているのだけれど。二年六組の教室に向かう途中、不意に通りがかった空き教室から窓を開けるような音がした。真っ先に、全身真っ黒の服を着た不法侵入者が思い浮かぶ。怖いけど正体がわからないほうがもっと怖い。
私は恐る恐る教室のドアを開けた。勿論、ばれないように……。

「あれ、くるみ先輩……?」

立て付けの悪いドアのおかげで開けた瞬間に気づかれた。青空を臨む窓の側で子犬のように首をかしげているのは、探していた人。

『日向くん!どうしてこんなところにいるの?』

「あはは、たまたま見つけたので、ちょっと気になっちゃって」

好奇心旺盛だな……。

「ここって入ったらまずいですか?」

『今初めて入ったからわからないけど、念の為今のうちに離れよう』

「……そうですね」

あれ、これはもしかして、もしかしなくてもチャンスなのでは?

『ちょっとついて来て!』

「え、何、何ですか!?」

私は強引に彼の腕を掴んで走り出した。

「何か言ってくださいよ、くるみ先輩ー!」