並んで帰路につく。どちらも喋らなかったけれど、不思議と気まずくはなかった。ちら、と車道側の日向くんを見ると、彼は僅かに視線を落としていた。街灯の頼りない灯りに照らされているせいだろうか、その表情はどこか寂しげに見えた。きっと今、彼の中では複雑な感情が絡み合っていることだろう。
……だがしかし!
私にとっては彼に好意を伝える絶好のチャンスに他ならない。
クリスマスに「過去」を知ったら私は私でなくなってしまう。この恋心も消えてしまうかもしれない。とてもそんなこと信じられないが、彼が言うのだから絶対にでたらめではない。
ということはつまり、「今」の私が日向くんに恋できるタイムリミットはクリスマスの日まで。約3週間のみ。
ぐずぐずしている時間はない!
もう両思いなのは確定事項なのだから、なにもためらう理由はない!
私はなんの前触れもなく、あたかも当然のことのように隣を歩く日向くんの手を掬ってさっと繋いだ。なに食わぬ顔で。
しかも、恋人繋ぎで。
「えっ、せんぱい……?」
さっきまでの憂い顔はどこへやら、思いっきり動揺したような声を出す日向くん。しめしめ、作戦は成功だ。奥手は損!葵を信じてよかった!
にやにやしながら日向くんをみあげる。目を見開いて呆然とした彼は。
「ふっ、あははっ、さすが先輩!」
堪えきれずにふきだした。
んんっ、ふはは、とお腹を抱える勢いで笑って、左目から零れた僅かな涙を拭う。
「はあ、もうほんと、かっこいいなあ」
そういうところが大好きです、と少し恥ずかしげに、けれどまっすぐに目を見て彼は言った。
今更ながら気恥ずかしくなって目を逸らす。街の明かり、道のレンガ、行き交う人々。
ふいに、私の頭の中で何かが弾けた。
あれ?何か忘れているような。
「……」
あ!そうだった……!
私は弾かれたように隣の日向くんを見た。
「先輩?」
スマホを取り出すのももどかしく、ぱくぱくと口を開く。
――写真!
「あ、そうだった!そのために行ったのに」
コンテスト用の写真を撮るのが目的だったというのに、一枚も撮らずに帰って来てしまった。
「すみません、僕が急に暗い話したから」
ふるふる、と首を横に振る。
いや、私が両思いに舞い上がっていたから。
「でも……」
日向くんは悪くないよ。
「いや」
だから気にしなくていいって!
……って、なんだか普通に話しているみたいだ。
こんな感覚、久しぶり。家族とでさえ挨拶以外はほぼスマホで会話するのに、日向くんとはまるで声が出ていた頃みたいに、普通のペースで会話できる。唇を読むとかそういうことじゃなくて、なんとなく、感情が、考えが伝わっている感覚。懐かしくて、温かい。
「……自惚れかもしれませんけど、先輩の今の気持ち、分かる気がします」
うん、きっと正解だよ。


